岡田純良帝國小倉日記

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魂を売り渡した男・島尾敏雄と奄美諸島(拾壱)
1月13日
魂を売り渡した男・島尾敏雄と奄美諸島(拾壱)
 高官の安っぽい想い付きのような作戦の真実を虚構によって逆転させようとする島尾に手を貸したのが、まさに“行かず後家”のミホであった。彼女にとって島尾隊長は許嫁に捨てられた冴えない前半生を転換させる千歳一遇の男であったはずだ。
 だから、ミホは、戦後米国統治となった奄美から、闇船に乗ってまでして九州に渡り、神戸の島尾の家にまで押しかけて女房になった。「奄美と朝鮮お断り」と店の入り口に張り紙がしてあるような神戸に居座ったのだ。
 当初は夫の忠実な妻であったつつましやかなミホは、夫の浮気を知って逆上し、精神に異常を来したが、その狂気のエネルギーを夫をなじることへと転換し、その後、何枚も、夫に絶対服従の誓約書を書かせることになる。
 夫はその妻を観察し、怒りや悲しみを腑分けして物語を紡いでいく。最初の「死の刺」はまだしも、昭和30年代から40年代に書き続けられた「死の刺」は、ミホの検閲があった。そう知れば、その虚構の物語に加担し、虚構のスケールを極限まで拡大していったのは、敏雄でありミホでもあった。

奄美ツアー 20180811 (オットン蛙).jpg

 しかも、加計呂麻まで来ると、さらに島の社会全体がそれを加速させたことが伺える。加計呂麻までのフェリーの出る奄美側の古仁屋には高台に高千穂神社があり、ここに参拝すると、皇紀2673年(平成25年)建立という石碑を見つけた。石碑には君が代が彫られ、その脇に窮屈そうな四文字熟語が四つ。
 「聖寿万歳 世界平和 国家安寧 皇国日本」
 右翼だとか考えるよりも、鹿児島は家々に皇室カレンダーが貼ってあるような土地柄で、とりわけ加計呂麻はさらにノロの護るシマなのだと改めて想わされたことだ。
 皇国日本を護るために九州からやってきた特攻隊長には御歌を捧げ、歌い踊るべきだと小学生が先生から教わったらどうなるか――名瀬の「島尾敏雄記念室」で観たビデオには、ミホの年老いた教え子たちが出ていた。

奄美ツアー 20180811 (アマミサソリモドキ).jpg

 負担の多い離島政策に悩む鹿児島県や島にとって、島尾夫妻は英雄的な存在でもあり、奄美の伝説を黙っていても宣伝してくれる観光大使のような存在でもあった。司書の資格など後からでいい――奄美分館の館長をお願いします――島尾敏雄が熊本で司書の研修を受けるのは就任後数年経ってからだ。
 震洋基地のあった場所に島尾敏雄文学碑があり、さらにその奥まった所に、「島尾敏雄・ミホ・マホ、ここに眠る」と彫られた墓碑がある。ミホの執念は人を戦かせるものがある。幽明境を異にする霊魂より、俺には生きている人間のやることの方が怖い。
 「私がいびつにした妻やこどもの精神をもとのものになおし近づけることのほかに私の生きる道はなかったかのようだ。そのためには、私は家庭を留守にして旅立ってはいけない。いつも妻子のそばを離れずにより添って気持ちを注ぎ観察するのでなければ、いったんひずみを与えたにんげんのこころにもとのすこやかさをとりもどさせることはできない。そのとき私はたぶんこの先、旅行に出ることなど望めないと考えたはずだ」

奄美ツアー 20180811 (奄美大島北端用岬(笠利崎)).jpg

 書いた本人は女性関係や夫婦の虚構を、ここまで暴かれるとは書いた当時は予見もしていなかっただろう。だが、もう、死人に口無しである。これからは暴かれるばかりだろう。
 葬儀後、夫の骨は、焼き場から持って帰った当夜、形のいいもの以外の遺灰を、ミホはもう一つの骨壺に入れさせた。福島県相馬市小高の敏雄の母親の代々の墓所に収めるべく、息子の伸三がもう一つの骨壺を持って行かされた。
ミホは一体全体何が面白くなくてそういう狂気に突き進んでいったのだろうか。愛する夫だけではなく、娘まで、なぶりものにした。マホは、母親の狂気の中で狂っていったと伸三は書いている。
 夫はある時点から、そういう存在であると自分を割り切って役割を演じていた節がある。ミホの要求を殆ど全て受け入れ、最期は、心の片隅に少しだけ死を意識して蔵書を階下に運んでいたのではないだろうか。
 哀れでもある一方で、私小説家の末路には必ずこんな嘘が隠されていることをようやく俺は知るようになった。また、こんな共犯者のような夫婦が他にいることを俺は体験的に知っている。気の毒なのは、何時の世も、そんな親に育てられた子供たちである。


追記
さて、これから渋谷の文化村に。「My Generation」を観に行くことにしているのだった。寒いけど、自分のためです。ドヌーン。
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