岡田純良帝國小倉日記

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魂を売り渡した男・島尾敏雄と奄美諸島(漆)
小倉日記’19(第二弾)
1月9日
魂を売り渡した男・島尾敏雄と奄美諸島(漆)
 昭和の作家の中では吉行淳之介(1924-94年)には随分親しんできた。文学史的な分類では島尾敏雄(1917-86年)のような私小説作家の系譜の作家ではない。
 学生時代、「悉皆屋康吉」を書いた舟橋聖一(1904-76年)とか「競馬」を書いたオダサクこと織田作之助(1913-47年)の文体には夢中になったのだけれど、同時代の人ではなかった。
 その点、吉行はこちらが読み始めた時にはまだ50代で同時代の伯父さん世代ではあった。だが、そうかといって、吉行淳之介の小説作品はあまり好みではなくて、当時は多数出ていたエッセイと対談をかなり読んだ。

奄美ツアー 20180812 (ヨシユキ反応).jpg

 つまり、小説の方は島尾敏雄と同じく、俺は吉行のよい読者ではなかった。
 「腿尻三年、胸八年」と放言し、銀座のホステスを相手に、世の介気取りのドンファンで、昭和40年代の後半位からは一種伝説化された、華やかな芸能人のような存在になっていたように記憶する。
 しかしニッポンにもかつて棲息していた斯道の達人の箴言に触れて、世界中であれこれ見聞すると、吉行の「修行」への疑念がむらむらと湧いてきた。ここ20年ほどのことだった。晩年の20年間の渡辺淳一(1933-2014年)にもそんな雰囲気があった。

奄美ツアー 20180811 (下がり花).jpg

 ある時点から、この稀代の艶福家には、売り物にできるほど女修行はしていなかったし、実は大していい女を相手にしていかなったではないかという、ご本人には大変に失礼だが、面目丸潰れになるような疑念が消し難くなっていったのである。
 吉行の女修行不足の疑念については、じわじわとこちらの中で一つひとつ謎が解されて、今では、ほぼ吉行の謎は解体され、卒業したような気分でいる。例えば「街に顔があった頃――浅草・銀座・新宿」[新潮文庫]では開高健(1930-89年)を相手に得々とした語り口で女を語る。だが、実は開高の方がずっといい女を相手にしている。そういうことは、こちらも修練を積み、読んでいる内に、おおよそ分かってしまうものなのだ。
 吉行は、売春婦、ホステス、それとアイドル。開高は、研究者、編集者、それと外人。嗜好は真逆というほど違うが、確実に言えるのは、開高健の方が、相手に求める出会いの条件が高いことだ。吉行淳之介の方が女に求める条件は低い。

奄美ツアー 20180812 (しまバス車内).jpg

 別の言い方をすれば開高の方が女性への期待が大きく、吉行の方が期待をしていない。吉行は古い民法、あるいは封建的な目線で、開高健の方が敗戦後の民主主義的な目線で、より現代的でもある。
 しかも、吉行自身の修行不足は、吉行の自覚の無さ、認識の甘さにあるだろうけれど、悪気は無いわけである。吉行が悪いわけではなく、その程度の人物を有り難がった読み手、つまり畢竟するところ、日本の風潮がそうだったということなのだろう。
 吉行淳之介は当時有数の対談の名手で、話術も巧みな人であった。友情に篤く、同業に留まらず、異業種の仲間との付き合いも広汎で、こちらも随分知的な刺激を受けてきた。だからあまり悪くは言えないのだが、本分の女体の修養では甘さはあった――今ではほぼこれは確信に変わっている。
 敗戦後のニッポン社会は、この程度の女修行しかしていない人物の書いた売買春小説をまことに有難がって読んでいたわけで、まるでおめでたい時代でもあったわけだ――そう理解もしている。
 塩辛い話になるが、日本では世界に通用しないサッカー選手がプロでメシを喰え、翻訳されることのない小説を書く人たちがメシを喰える。この辺りには、時々、やりきれないような気分にさせられることがある。


追記
昨日のランチはチキンの香草焼きでありました。喰ってしまい、腹がドツンパで午後は集中力が落ちたワイナリー。チキンはとても柔らかく、付け合せのポテトのマッシュしたソースも大変美味かったのだが、大いに深刻な話だったわけで、「美味い!」を連発する訳にいかず、静かに押し殺して喰っていたわけだ。深刻な話ではあったが、前向きな話でもあった。俺はチキンではないけど、台湾風に言うと「らいららいら、こっここっこ」である。ウッフッフッフ。

追記の追記
書かれたことの無い人生というのは無数にあり、描かれたことの無い真実もまた無数にある。先日、日経新聞の書評面に、 大意、「私の30年の作家生活の全てを注ぎ込みました」という林真理子のセリフと共に新作の広告が出ていた。人生はそんなに薄っペラではない。書き手がその程度だから書かれたものはそんな程度でもある。
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