岡田純良帝國小倉日記

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南洋随想――人虎伝説と中島敦。
7月9日
南洋随想――人虎伝説と中島敦。
 ここ10年ほどの間で、時々、南洋系のネタになると中島敦(1909−42年)に絡んだことを書いていたことに気付いた。
 「光と風と夢」(「中島敦全集1」[中島敦著, ちくま文庫]に掲載)について歌人の小島ゆかり(1956年-)が40年近く読み続けている。これは、Robert Louis Stevenson(1850−94年)のサモアでの晩年の暮らしを描いた小説だ。ここから我が家の親戚と中島が繋がり始めた。
 中島敦は持病の喘息で夭折してしまったので書き遺したものは多くはない。帝大を卒業した後、当初は横浜で高等女学校の教師を務めていたが、喘息が悪化して休職、ある日、文部省の教科書編纂掛として南洋・パラオ島に転じてしまった。喘息持ちには南洋の気候・風土がいいという見立てがあったのかどうか。

将棋を指す中島敦。.jpg

 拙宅には大正期に旧制高梁中学に通った親戚が使っていた日本地図が保存されている。紐解けば、台湾と朝鮮の地図の後に北海道が掲載されている順番には驚くだろう。当時の台湾と朝鮮には日本列島から夥しい航路が伸びている。
 また、主要都市の市街図の中に京城市街図と台北市街図が含まれている。京城と台北の道路網・鉄道網は札幌や仙台よりも整備されていた。日本にとっては極めて重要な拠点であったことが分かる。
 中島が南洋に暮らした昭和初期には、6百万人に及ぶ日本人が、朝鮮半島から中国大陸、南洋諸島に散って暮らしていた。国家の経営上、重要なのは地方の多様性を認めながら、国全体としての統一性を併せ持つことだ。具体的には教育と言語が重要になる。
 高梁中学を卒業した親戚は、その後、師範学校に進み、小学校の教員の免状を取った。テニアン(北マリアナ諸島)、ヤップ(現:ミクロネシア連邦)の尋常小学校で教師をしていた。地図を見ながら夢でも見ていたのかと俺は想像する。
 ヤップ島からもう少しだけ南下すればパラオ島。もしパラオ島の尋常小学校に赴任していたら、そこで文部省の官員として働いていた中島敦とも知り合いだったはずだ。親戚は子供が好きで、日本人や現地の子供たちと一緒に教室で撮った、心温まる1枚が60年後にFloridaの娘の家にあった。
 今日も、往年の南方政策を悪し様に言う人は、南洋諸島の社会は階層社会で、日本人を頂点として、沖縄人、朝鮮人、島民、という順に序列と差別構造があったとよく言う。
 今でも、例えば、Brussels辺りでは、差別構造があると嘆く人はいる。大使を頂点に、日本人商工会の序列はそのまま女房殿の序列になり、日本人学校の子供たちの序列になる、と。何時の世でもそういうことを言う人はいるものだ。それで何かいいことがあるのかと語り続ける人の顔をじっと見詰めてしまうことになるわけだが。

  碁を打つ中島撫山(敦の祖父)。.jpg

 「山月記」は南洋各地から中国南部にかけて拡がっている人虎伝説から材を取ったもので、「唐人説薈」中「人虎伝」を下敷きにしたと書いている。詩人志望の青年が職を棄て、妻子を棄て、ある日発狂して、その変身した虎と旧友が山中で再会するという物語になっている。
 開高健(1930-89年)は中島がFranz Kafka,(1883-1924年)の「変身」をすでに読んでこれを意識していただろうと指摘している。その実際は知らないが、儒者の家に育った中島は、幼い頃から東南アジア各地から遠くインドまで拡がった人虎伝説に親しんでいたはずだ。そんな育ちから「山月記」は書かれたのだと考えることの方がずっと楽しいように想う。
 「一行が丘の上についた時、彼等は、言われた通りに振返って、先程の林間の草地を眺めた。忽ち、一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼等は見た。虎は、既に白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった」
 「山月記」の舞台は現在の広東・珠海の北部にある嶺南地方。この南嶺山脈に生息する虎は華南虎(アモイ虎)で、「虎骨」は不老長寿の薬として珍重される。今や絶滅の危機に瀕しているが、同時に俺の好きな様々な緑茶が栽培されている魅力的な地域でもある。儒家・中島の教養をして、嶺南にかつてあった彼の地の真・善・美が描かれたのだ。
 近々、「山月記」を手渡してやるべき友の顔が浮かんだ。きっと喜ぶだろう。


追記
西日本豪雨災害で廣島系は大ワーヤの騒ぎになったけんども、NHK辺りで体育館に集められたインタビューでも、廣島のもんはよう喋りおるわいねえ。呆れるわい。オホホホホホホホ。
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