岡田純良帝國小倉日記

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気になる本(捌)――横濱、女衒、掏摸、博徒の蠢くところ
2月10日
気になる本(捌)――横濱、女衒、掏摸、博徒の蠢くところ。
 「ある市井の徒 越しかたは悲しくもの記録」[長谷川伸著, 中公文庫]
 明治期も後半になると、目は国外に向き、大陸進出や台湾併合などが進められていく。目端の利く者は、明治前半から後半にかけて大型の普請(土木事業)が伸びたことを肌身で知っているから、勇躍海外事業に飛び出していった。
 一方、国内の普請事業は平場のインフラ工事から山間の開発に向けられ、次いで、港湾工事の経験者らは干拓事業に目を付けて行くのは自然な道行きだった。土木業界史でも画期的な大規模事業としては、明治以前の有明海の干拓、明治末には利根川や信濃川の改修工事が挙げられる。

「沓掛時次郎」(2).jpg

 ドック建設で撥水夫、次いで測量士補助、品川の遊郭向けの仕出し屋の出前持ちなどを経験した新コ。寅之助は十代の半ばになっていた息子を再び呼び寄せる。請負師として育てる悲願の達成までもう直ぐだ。
 新コは、小柄ではあったが、全身バネのように強靭な肉体を持つ少年に成長していた。寅之助に着き従い、渥美半島・田原の先で干潟の埋立てに取り組む時の姿は手甲脚絆に股引・腹掛けに印半纏と手縫いの足袋姿。いなせな請負師の卵である。
 ところが、とうとう、田原の干潟埋め立て工事で寅之助は全ての家財を失って破産する。破産前には地元の工事反対派に命を付け狙われる。匕首とリボルバーを寝る時は布団に隠し、昼間でさえ腹掛けに拳銃を忍ばせて歩くような暮らしに追い込まれた。
 田原は豊橋鉄道の渥美線の終点。身内の某の家がある。温かく風光明媚な土地で、殺し合いになる埋立て論争があったとは想像し難い。破産した寅之助は日露戦争後の満州に流れて行くことになる。満州は喰い詰め者の請負師が流れ果てて行く先にもなった。
 田原では、猟銃が耳を掠めて血が流れ、相手を返り討ちにする一歩手前までいったが、新コはそこで相手を撃つことはしなかった。この人物にはどこか明るいところがあって、それはこの人の正義感に由来するものだろう。

    「長谷川伸色紙」.jpg

 新コは兵役、新聞記者生活を経て作家になり、30年後に「瞼の母」と奇跡的に再会する。クリスチャンの一家を訪れた新コは黙って母の手を握った。この再会で泣かされるのは異父弟。深夜義兄が暇を告げると、その顔色で2度と会いに来なくなると見て、「自分も一緒に帰る」と言って義兄を見送りに共に家を出たことだ。
 母は次男が愚連隊の群れに身を投じたと嘆き神に祈った。匕首と拳銃を持ち歩く人間はカタギではないが、新コはギリギリのところで矜持を持ち続けた。「瞼の母」を書いたが、母の死まで上演は封印された。
 敗戦前に普請で使われていたのは浚渫船、曳船、土搬船、トロにモッコ。アメリカではニューディール政策時代、機械化を推進したが、日本はここで2〜30年水を空けられたことが後々太平洋戦争の趨勢を決した。南方戦線で、戦時中、アメリカ軍は最新の建設機械を使い、あちこちの離島にたちどころに飛行場を建設した。
 長谷川伸は、戦時中、匿名で多額の寄付をした人だが、敗戦後には「混血の児」を巡ってあった様々な差別の風潮の中で、差別を戒めるために朝日新聞にまで投書をしている。幼い頃の山口冨士夫(1949-2013年)に聞かせてやりたい。
 「一緒に帰る」と言った異父弟の隆信は、敗戦後長く侍従長を務め、「侍従長の昭和史」を書いた三谷隆信(1892-1985年)。その長男が三島由紀夫(1925-70年)の幼馴染の三谷信(1925-2000年)だ。あの「仮面の告白」の園子の家族である。嗚呼、数奇な人の世よ。


追記
これから出立。元住吉方面へ。久し振りだねえ。ハマも変わり、元住吉辺りもすっかり変わった。綱島にあったミッキーラーメンとかミッキー安川(1933-2010年)なんて憶えている人いるか知らん。
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