岡田純良帝國小倉日記

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気になる本(参)――横濱、女衒、掏摸、博徒の蠢くところ。
2月5日
気になる本(参)――横濱、女衒、掏摸、博徒の蠢くところ。
 「ある市井の徒 越しかたは悲しくもの記録」[長谷川伸著, 中公文庫]
 没落一家の大黒柱で伸太郎の実父であった寅之助は、ある日、家業の煙草屋を居抜きでとある夫婦に売ってしまうのである。居抜きとは、店も家具も日とも。伸太郎も諸共で夫婦者に売り飛ばされたのであった。
 かねてからお客として店番をやる伸太郎の仕事ぶりを見て、店番に使えると見て取ったのだとある。
 「新コは棄てられたのではない、店を買った夫婦が、殊におかみさんの方が新コを貸して置いてくれと頼んだからでした」
 寅之助は長男を小僧奉公に出し、次男までを棄てた。しかし新コは父が自分を棄てたと書かない。意地がある。
 遠回しには書いてあるが、父親の身から出た錆だ。しかしそうとは書かない。若い頃は、昔話の糊塗を読み切れなかったわけだが、今はそこに書き手の作為があり、その裏側の真実をあれこれ想像しながら読む楽しみを知った。

印半纏を着たエドワード8世.jpg

 大伯父が黄金橋をかけて黄金町になったという土建屋の血を引く長谷川伸。一族は元々新潟の大工で、その後栃木・小山に出て勢力を張った。横浜開港で日本中から腕自慢の請負師・大工が集まる前に移住届を出したのが大伯父の秀造と祖父の新造。安政6年の開港と同時だった。
 大伯父の秀造は「駿河屋」の看板を掲げて、日ノ出町から黄金町の辺りでは知らない者のいない大立者となったそうだが、新コの生まれる頃、箱根の道路開削工事で失敗する。秀造も老いてヨイヨイになって没落した。
 父親に売り飛ばされた後が曖昧だ。9歳頃には品川の遊郭でも暮らしていたことがある。前後の関係から類推するに、品川の二日五日市村とあるが、妓夫の片眼の徳さんの家で下働きをしていた祖母の元に身を寄せて城南尋常小学校に通っていた時期もあるようだ。

   印半纏を着た江戸期の子供たち.jpg

 一般的に長谷川伸のプロフィールというと、横濱のドックに勤めることになったとある。それは正しくない。正確には横濱船渠の建設現場で働いたということだ。横濱船渠とは造船所のこと。新コの働いた第2ドックは今ではドックガーデンとして公開されている。
 当時、日本でも最大級の工事現場だから、現場で第百銀行の銀行家を見たり、あるいは、付き合ったりする者も各地から流れてきた職人が多かった。
 「第二号船渠の内側に、仕上げが出来た花崗岩を一ッずつ据付けてゆく、据付けが終わると蓆を吊って日光の直射を遮ぎり、蓆に水をやって常に湿らして置く、その蓆を吊るのと水を撒くのが新コの仕事でした」
 横濱船渠では第2ドックが先に1897年(明治30年)に完成している。新コが働いたのは丁度今なら中学1年〜2年といったところになる。

壮年期の長谷川伸(1931年).jpg

 「新コの記憶が狂っていなければ、第二号船渠の周囲の石の壁は、その一ッずつが誕生の日から二日か三日ずつ、残らず新コの撒いた水を受けたものばかりです」
 こちらは、昭和時代、父が土建の親方の下締めのような仕事をしていた関係で、俺には往時の土建現場の雰囲気は懐かしい。
 日本有数の現場になると、昭和時代には関西から東京から大掛かりな人足集めをやった。本宮ひろしの「男一匹ガキ大将」はダンプの荷台にスコップやもっこを手にした男たちが乗り込んで敵対する同業との喧嘩に行くわけだ。
 似たような人足集めの光景が、釜ガ崎やら山谷やらで繰り拡げられていた。わざと指を落として保険金をせしめようとする連中がゴマンといる。誰がカタギで誰がやくざか。どこから敵か味方か。そんなものはトーシローには分からない。
 新コは夜学の時習学校に通い、昼間は現場で働いては懐に忍ばせた「近古史談」を開いて読んだ。だから、ドックで艦船の建造に携わっていたわけではない。


追記
東京は暖かくていいねえ。北関東は寒い。氷は張ってるし、霜も降りてて。ここは踏ん張りどころだねえ。孤独だけど奮励努力。死に花を咲かせて見せるなんてことは、若くもなし、もう言えないことで。

追記の追記
沖縄からは朗報。身内が喜んでおりまするわい。騙されてはいけん。何がリアルな現実か、どこにでも不都合な真実は転がっておりまする。
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