岡田純良帝國小倉日記

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開高健補遺(下)――金子光晴になり損ねた男。
1月10日
開高健補遺(下)――金子光晴になり損ねた男。
 「開高健の文学論」[開高健著, 中公文庫]
 どうして「小説」に拘って「闇」の完結篇の執筆に躍起になったのか、ということを考えていくと、逆に、三部作なら開高健には書かれるべき三部作が別にあったはずなのに、ということに思い至った。
 「たまねぎスープと工場」(『日本の詩歌』1970年3月)から。
 「たとえばフランスではペン一本で“食べ”ている小説家は十人いるかいないかであり、あとはたいてい新聞記者、教師、図書館員、その他もろもろの雑職についてかつがつたまねぎスープをどんぶり鉢からすくっているのである。まず平均して純文学作家は三年か五年に一作書き、その印税ではとてもビフテキなど食べられず、しかたなくたまねぎスープをすすってすごす。出版部数はせいぜい三千部から五千部止り。随筆文学の伝統はわが国のそれとは異るから気楽にうまいものの話を書いて食べるということもできない。この点、おそろしく古めかしくできていて、そのきびしさ、頑固さには目を瞠らされるものがある」

開高健(5)執筆部屋入り口の洋服掛け.jpg
 関西のブランド好きのオバちゃんとかオッちゃんのようなところも感じられ、そこいら
 中にまるで賑やかしのようにあれこれとっちらかってブツが置いてあった。人生に飽き、
 暮らしに飽きていたことがよく分かる。

 パンクの伝統は、日本の叙情フォークみたいなそれとは異なるから、気楽にバラードを歌って食べるということもできない――俺は、そう日本でパンク系の評論で喰ってきた音楽評論家と叙情パンクに言いたいね。
 脱線したが、そんなフランスの首都、花のパリで乞食同然の暮らしをして「リャク」(略奪)もやっていた金子光晴はきびしい世界で行き抜いた。なぜ、金子光晴のことを強く意識していたのかが気になっていたが、女のことやパリで生き抜いただけではないだろう。その理由が分かったようにも思う。
 「詩人にもたとえばアングラ劇を書いている某詩人などのものを読むと、盗句、イタダキの類をいっさい消したら何がのこるだろうかというほどのものであって、それがパロディーに仕立てる才覚、努力の跡も見られないので、太いのにおどろいちゃう。(彼を“詩人”であるとして書くハナシであるが……)」
 これは寺山修司のこと。まだ40歳。絶頂期の詩人を正面から袈裟斬りに斬り倒している。寺山修司も驚いたかも知れないが、開高健はオリジナルであろうとする気力の無い者を許せなかったのだろう。

開高健(6)仕事部屋へ続く異様に小さな扉.jpg
 家族を拒絶する扉。行ってみるとその感じが分かる。編集者は玄関を通らず、庭の哲学の
 径を通り、執筆部屋のある外側から入ってきたそうだ。辛かったろうねえ、センセイも。

 その点で、作家は、金子の敗戦までの生き様全体を何時も心の隅で意識していたのだ。
 「私は金子光晴が好きだったし、田村隆一も好きだった。いま私が彼らの詩からどれほどの遠近のところにいるのか、まったくまさぐれないでいるけれど、たとえば光晴の詩と生涯を考えると、あれだけの長年月にわたる放浪、おちぶれ、めちゃくちゃ、ふてくされ、やくざの徹底のなかから帰ってきて、それでもふたたび詩を書きはじめたという、そのことにおどろかされるのである」 
 開高健は、思春期に読んだ1935年(昭和10年)発表の「鮫」のことを脳裏に置いている。あるいは、1940年(昭和15年)に刊行された「マレー蘭印紀行」を意識しているのだろう。だが、この文章が書かれた翌年に、金子光晴は、75歳にして「どくろ杯」を出して以降、化け物のように旺盛な作品を書き蘇った。77歳にして「ねむれ巴里」を出し、78歳にして「にしひがし」を出し、翌年、79歳で死んでいる。作家はその意味を認識していなかった。
 開高健こそ、70歳を超え、ヴェトナム、アマゾン、北南アメリカ大陸縦断記の三部作をモノすることができたろう。小説作品より、ずっと深い文明批評に到達していただろう。日本文学のためにも残念でならない。


追記
ロンドンとアムステルダムから頼りあり。諸方から賀状届く。焦らずたゆまずで参りたいところだが、体調今ひとつでライツ。寒さがライツ。
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