岡田純良帝國小倉日記

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備忘録――「ベトナム報道」(5)
8月6日
備忘録――「ベトナム報道」(5)
 「ベトナム報道」[日野啓三著, 講談社文芸文庫]
 著者は主観報道について、態度は2種類あると記す。
 「刻々の現在の新しい展開に対し、もはや新しい疑問も驚きも不安も感じない閉じられた貧しく傲慢な態度」
 「過去の体験と印象を背負いながら、眼前の事態に鋭敏に目と全神経を開いて、不断に自分の予感を検証し、自分の論理を補足し修正しつつ、つねに自分の観念とイメージをつくりつづけていく態度」
 「同じ主観的要素でも、後向きに閉じられた主観性と、前向きに開かれた主観性とがあり、この前者の硬化した主観性は言葉を単なる貧しい伝達の手段にしてしまうのに対して、後者の柔軟に開かれた主観性こそ主体と状況とのつねに生き生きとした相互作用を確保する」
 「その意味で、言葉の問題に対する鋭敏な誠実さというものは、決して報道の技術の問題ではなく、報道者の基本的な態度の問題でもあろう」
 「さる女性ジャーナリストがサイゴンにきて早々、喫茶店で私たちに『あんた方はサイゴンをまるで台風の中か地獄の入り口のように書き立てているけど、何よ、全然平和そうじゃない』と平然といったとき、私はほとんど本気になって怒った。
『一体、ここにきて何日目だ』
と私は怒りをおさえてきいた。
『もう三日になるわ』
『たった三日で生意気なことをいうんじゃないぜ。あんたは、何がわからないかさえ、まだわからないんだ。いま、うやうやしくあんたにアイスコーヒーを運んできたあのおとなしそうなボーイが、ベトコンのテロ工作班の隊長でないと、誰が保証する。いまこうやってぼくらが壁のかげのテーブルに坐ってるのも偶然じゃないんだ。あの通りの向う側のホテルは、アメリカ人ばかり泊ってるホテルで、そこがやられたときの爆風の方向を、ぼくらは無意識のうちに考えて、窓際に坐らないんだ。一週間前に、あのホテルの裏口にとめてあった自動車の中に二百キロの爆薬を仕かけてあったのが発見されたという情報をきいたばかりだからな。もちろんそんなことは日常茶飯事だから、ことさらここの人たちはさわぎはしない。ぼくらもいちいち打ちはしない。何も知らないあなたにはさぞのんびりした夕方の街にみえるだろうがね』」

      「ベトナム報道」(5).JPG

 下村満子か松井やよりかは知らないけれど、テロの街で「平和」を振りかざして演説をぶつ光景が目に浮かぶ。先発の男性特派員諸兄にはさぞや迷惑だったことだろう。
 「不安のままに、とにかくどんな形でも戦争だけは止めてくれればいいと強調しすぎるとき、私はふと釈然としないものを感じる。それはあまりに利己的で感情的にすぎないか。戦争とは一つの天然現象ではなく、双方ともに戦うべき理由と意義があり、そのために血の犠牲をすでに何年にもわたって賭けてきたものだ」
 「この点についてあくまで第三者的な、甘い幻想は抱かない方がいい。まして第三者的立場からの“調停”のつもりが、実は一方の側の間接援護射撃となるような愚は避けるべきだ」
 当時、特派員諸兄はタイプで原稿を打った。19世紀末の美しいサイゴン中央郵便局に原稿を持ち込んで東京に打電した。原稿はローマ字打ちだったと知った。パリ中央のオルセー美術館を模したあの郵便局に日野啓三も開高健も日参していたのだ。
 「彼は英語は達者でなく、私はフランス語が片言しかできないから、複雑なことをしゃべることはできない。しかしそういう私の気持ちは何か通じるようだった。私だって東京に帰れば、二百ドルにもならない安月給で徹夜勤もあるんだ、同じ身の上さ――と思いながら『大変だな』といい、買ってきたばかりのアメリカ製ヤミ煙草を一個差し出した。メルシーといって素早い手つきでさっと受けとりながら、また力なく親しげに笑った」
 「欧米人の特派員たちには、決して彼はそのような顔をみせない。白人特派員たちはこの貧相な男を、電話機か何かの機械のようにしか見ない。アメリカとベトナム人の心のくい違いは、こういうところにもある」
 郵便局近傍にGraham Greeneが「静かなアメリカ人」を書くために滞在したホテルがまだ残っている。共産党シンパのMI6メンバー。晩年まで児童・少女買春癖を止めることができなかったイギリス人の大作家。Marguerite Durasの「愛人」とは違うが、若かった彼は夜毎ベトナム人少女を買ったかも知れない。
 俺は、日野さんの哀しみが分かる。彼は自分をアジア人だと分かっていた人だからだ。


追記
いよいよ終わりの始まり。カウントダウン開始でありんす。西のフーに東のフェイセス。行って来ました、両者共。思い残すこともこれでもう無いか知らんなぁ。
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