岡田純良帝國小倉日記

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気になる本――されど老学究の辿り着いたところとは。
7月13日
気になる本――されど老学究の辿り着いたところとは。
 「地蔵千年、花百年」[柴田翔著, 鳥影社]
 長野の学術出版社の鳥影社(https://www.choeisha.com/)から想わぬ人の作品が出た。80歳を超えた、元東大独文教授の柴田翔(1935年-)の30年振りの小説作品である。
 大ベストセラーになった「されどわれらが日々――」で1964年(昭和39年)に芥川賞を受賞したが、その後、70年代前半には文学世界では沈黙していた。
 同年の仏文の大江健三郎(1935年-)に対抗する、独文系保守本流と永年期待していたが、日本文学の世界では殆ど積極的に発言することなく、あくまでドイツ文学の研究者として立ち、大学を退官し、今に至った。ずっとその名を忘れていた。迂闊だった。
 調べてみると、産経新聞の「自作再訪」に登場して、柴田さんは半世紀以上前の自作について執筆動機を語っていたのだった。一部、その著者自身の言葉を引きたい。
 「戦時中の学校の雰囲気は軍国主義的、つまり集団主義だったわけですよね。個人が物を考えること自体が間違いで、全部国家の方針に従う。それが嫌で戦争が終わってほっとしているところへ、今度はまた社会主義という集団主義です。信じろと言われたことが実はウソだった、ということを戦争で散々経験して、共産党の思想統制みたいなものにも神経質なのが僕らの世代だと思っていたのに案外そうでもない。それへの疑問や違和感が根底にありました。ヨーロッパ風の個人主義から見れば人間は個として理性的に自己決定ができるはずなのになぜ?と」
 「されどわれらが日々――」は、しかし、学生運動に関わった世代のバイブルになった。

       「されど我らが日々――」シングル盤ジャケット。.jpg

 小熊英二の「1968」の「著者のことば」が浮かぶ。
 「若者たちは、政治的効果など二の次で、機動隊の楯の前で自分たちの『実存』を確かめるべくゲバ棒をふるい、生の実感を味わう解放区をもとめてバリケードを作った。いわばあの叛乱は、『近代』から『現代』への転換点で、『現代的不幸』に初めて集団的に直面した若者たちが、どう反応し、どう失敗したかの先例となったのである」
 これは70年安保に向けた若者の生態で、小熊さんの説も一つの見立てでがあるが、50年代に大学で過ごした著者の意識は60年代後半の学生の価値観と真逆だった。
 1950年代の東京大学で「私」は退屈して大学で知り合った女性たちと様々に関係する。共産党が六全協(1955年)で武装闘争を放棄し、挫折感に苛まれて自殺した男性の影で「私」と婚約者の間にも波紋が拡がっていく。作者がドイツ留学中に、広く青春群像として読まれるが、舞台設定と作品発表には10年ほどの時間差があった。
 「当時の活動家は自分の演説内容を信じていたというより、演説する自分が好きだったんだろうな、と思ったのを覚えています。保守派のブレーンになった連中も多い。日の当たる場所にいてもてはやされるのはやはり気持ちいいんですよね」
 「留学中にヨーロッパの現実に触れるうちに、あの小説が前提にしていた『立派で理性的な個人』というのはフィクションでしかないと強く感じた。だから売れるのは大変ありがたかったけれど、帰国したときにはもう自分の中で小説と距離ができていた」
 「僕は小説で『こうあるべきだ』と何かを主張するつもりはない。ただ自分に見えている世界を書きたくなる。書くことで『人間ってこういうものなんだな』と納得できる。それは、若いころから変わっていないですね」
 この物語は、1975年頃から説き起こされる。著者が一度筆を折った時点であろうか。主人公は警察から追われていた男に誘われ、Cubaと想われる土地で貿易商となって数年間暮らす。しかし急遽帰国することになり、現地の恋人と別れ、日本で貿易商となる。面白いのはその後、長じた息子が国際結婚し、血が交じり合っていくところだ。
 柴田さんは丁度自分の父親の世代で、俺の周囲には国際結婚組が多数ある。主人公は妻を早く喪い、死者と生きている者との対話の中で物語が進む。評者は渾身の力作と評している。(国文学者・東京大教授・安藤宏評、讀賣新聞)


追記
これから大陸へ。おおおっと、辻静雄センセイの40年前の記録も携帯して参ります。ようやくこの位まで余裕が出てきたわねえ。ところで「ひめじ」人気なんやね。金太郎の人気も知らんかった。諸兄姐、ゴキゲンよろしう。
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