岡田純良帝國小倉日記

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弥次馬人生――大宅壮一描くところの阿部眞之助とは(下)。
6月15日
弥次馬人生――大宅壮一描くところの阿部眞之助とは(下)。
 「昭和怪物伝」[大宅壮一著, 角川文庫]
 さて、阿部は子供時代に相当の腕白だったので、当時のクラス分けは男女別であったため女の子のクラスに編入させられたことがある。
 「そこから生じた屈辱感が転じて女性蔑視の思想を幼い彼の頭に生みつけたらしい。おまけに彼より一級下に、明治キリスト協界の先覚者内村鑑三の娘がいて、彼女の成績がズバぬけてよかった。かくて彼の女性観、特にインテリ女性に対する劣等感は天性に近いといえるくらいまで強いものとなった」
 大して面白くない。

児玉誉士夫をインタビュー中の大宅壮一(後姿).jpg

 長じて、神近市子へ恋慕のような気持ちを抱いたこともあったようだとか、典型的なフェミニストだとかいう大宅壮一の各説が御開帳されるが、キレは今ひとつだ。
 「毎日新聞に入ってまもなく、彼は現夫人と結婚した。この結婚は『見合い結婚ではなくて、さりとて恋愛結婚ではなく、さしずめ性欲結婚といったところであろうか』と彼はいっているが、これは彼一流の表現で、彼の夫人は今でもそうだが、若いころはさぞ美人だったろうと思われるところを見ると、とにかく彼の方で惚れて結婚したにちがいない」
 これなどちっとも面白くない。

       神近市子(「わが青春の告白」表紙).jpg

 「阿部家には子供がなく、猫を沢山飼っていて、近所で派“猫のアパート”と呼んでいる。そういう点は大仏次郎に似ているが、大仏家とちがって阿部家には、ペルシャ猫などは一匹もいない。みんな野良猫ばかりである。阿部の文章の特色はその書き出し、即ちマクラにある。突拍子もないところから筆を起して、いつのまにか本題に入っていく技術は天下一品である」
 残念だが野良猫とマクラとは全く関係が無い。こちらから見ると「藍より出でて藍より青し」とはいかない。
 面白く囃すなら夫婦には子供が無かったことだろう。恐妻家には重なる部分がある。周囲でそういう子供の無かった夫婦があり、これは仲睦まじく、俺の知る身内は常に犬を飼っていたからよく分かる。せっかくのネタをこねて引き伸ばせていない。
 これがトップ屋の限界か。昭和30年頃から爆発的に伸びた新聞社系週刊誌を中心とするゴシップ狙いのトップ屋稼業の仕事の典型のように感じられる。荒っぽく、読み返すほど考察が深くない。大宅組の誰かがゴーストライティングしたのだろうか。
 明治書生の成れの果てのような阿部眞之助の文章には、俺は大いに感じるものがある。彼もまた、大日本帝国が滅亡しなければ敗戦後の公職復帰も無いし、横綱審議委員になることもなかったろう。

 犬養毅と高橋是清.jpg

 つまるところ“蘇った明治男の良心”であり、そこに阿部の真骨頂があった。敗戦時、還暦を過ぎていた彼はお国の没落で蘇ったからこそ、老いた彼が一文字ひと文字書き遺した維新元勲についての容赦の無い月旦を今も楽しむことができる。維新の元勲も、彼に斬られて、初めて生身の人間として今に蘇ることができたとも言える。それほど面白い。
 ところが、大宅壮一の名で遺された阿部眞之助の評伝を読むだけでも、戦後、トップ屋を何人も抱え、月産何百枚も週刊誌の記事を量産した大衆向けジャーナリズムには、残るものが何も無かったことをしみじみ感じさせられる。大宅壮一しかり、梶山季之しかり。同じ頃、「週刊朝日」や「朝日ジャーナル」に書いた開高健の文章は違うものだ。
 文章の価値は、これくらいの時間が経って、自ずと明らかになってしまう。恐ろしいものだ。後世の人に笑われないようにと身を削って書いた不器用な明治書生っぽと、毎晩派手に銀座で飲み暮らしたトップ屋との違いは大きい。
ありもしない無責任な大衆でなく、阿部は、心は車夫丁稚に向けて書いたからだろう。そういう心のありようは、結局、来る時が来れば“分かってしまう”ものなのだ。


追記
明日はどうなりますか。分かりません。国がどうなるのか、ヨタヨタしていると付け込まれるし、内に怖い顔ばかりするとナウなヤングな若い人が伸びてこないからねえ。って。オホホホホホ。老い込むと先は短いわねえ。
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