岡田純良帝國小倉日記

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気になる本――阿部眞之助の目線。
3月18日
気になる本――阿部眞之助の目線。
 「近代政治家評伝」[阿部眞之助著, 文春学藝ライブラリー]
 前に挙げて、ネットで注文しておいて、今年の正月に日本に帰国した折に持ち帰った本。阿部眞之助は戦前、「東京日日新聞」の主筆で戦後はNHK会長であったが、元々1908年(明治41年)に「満州日日新聞」に就職して以来、一貫して敗戦前まで政治・文芸関連記者を続けたジャーナリストだった。今日ならデスクとか編集局長とか、ラインの肩書きで、だが、終生、一貫して取材対象者とは深く交わった。駆け出しの若い時代には政治部で犬養毅、社会部長で吉川英治、休職すると、窮した挙句に人物論を手掛けるようになる。
 復職後、学芸部長で菊池寛、久米正雄らと親しく付き合って、これらが彼の生涯を貫く財産となった。本書巻末で東大教授の牧原出(1967年-)が「政治部記者経験の集大成」と題して記している通りと想う(牧原も政治畑でオーラル・ヒストリーを伝承する1人)。
 つまり、今で言う、編集委員、論説委員、論説主管・主筆という流れで、戦後は公職を兼務した。本書は1952年(昭和27年)1月から「月刊文藝春秋」に1年間連載されたもの。だから対象は12名。明治の元勲の評伝だ。

      「近代政治家伝」表紙。.jpg

 我々には遠い存在の元勲だが、阿部眞之助(1884-1964年)にとってそれほど遠くはない。現実に身近に取材し、接した人間が殆どであり、その謦咳に接した人間しか描き得ない、短いが、強烈な描写があってビリビリ痺れる。
 「私は新聞記者をして、多くの人と顔をみてきたが、あんな薄気味の悪い顔をみたことがない。冷々として無表情で、偶々笑えば、死人の笑いとなった」
 これが山縣有朋の横顔である。観た人間だから書ける主観で、観た者は絶対である。
 「こんな寂しい生涯を、八十五年も堪え忍んだのは、ただこれ彼の権勢欲のさせたこと」
 誰かが書評でこの部分を引いたが、そんなものよりも、「あんな薄気味の悪い顔」とか、「偶々笑えば、死人の笑いとなった」という寸鉄の方が彼の生前を彷彿とさせる。
 さらに言えば記者として当時の社会的な関係性を観ている。従軍記者として、1919年(大正8年)秋の陸軍特別大演習を対象天皇陛下の至近で観た時のこと。
 「丘の下から一人の老将軍が馬でやってきて、馬から飛び降りると、そこに居合わせた幕僚は、謹厳そのものの如くシャチコ張って、挙手の礼をした。陛下も手を挙げられた。老将軍は軽くこれに応えた」
 戦前であるから、天皇が馬上から降りた臣下に挙手することは「絶対にあり得ない」こと。「絶対に起きてはいけない」ことを阿部は目撃している。無論、そこに居合わせた記者は申し合わせもせず、「そんなヤバイこと」は書かなかったし、書けもしなかったはずだ。
 巻末の牧原解説では、後輩の大宅壮一が、阿部眞之助を評した一文を引いている。
 「阿部眞之助くらい善良で、臆病な人を知らない(中略)。それでいて彼には不思議に強い一面があった」
 阿部は「満州日日新聞」ではストライキ騒動で馘首され、「東京日日新聞」では誤報事件で「大阪毎日新聞」に呼び戻され、社内抗争に巻き込まれ休職する。6年間の休職後に「東京日日新聞」に復職して主筆にまで昇進するが、戦争中は執筆できなかった。牧原は「抗争の前線に立ったと言うよりは、不本意ながら巻き込まれた結果が、転職、休職、抜擢となって現れたのであろう」と書いている。さらに俺はここに休職中に始めた人物評論と、太平洋戦争中に「書かなかった」態度の2つが彼の場合には奏功したと想う。大宅壮一に言わせれば「不思議に強い一面があった」というのは機に応じる態度ではなかったか。
 なお本書では「明治十四年の政変」という言い方が度々出てくる。ドイツ流のビスマルク憲法(長州・伊藤博文&井上馨)かイギリス流の議院内閣制(肥前・大隈重信)かで政府内が抗争した事件。政府と言ってもこの時は太政官制だから岩倉具視ら公卿にも力があり、参議で「薩長土肥」から成り上がった元勲が加わったが、まだ国会は開設されていない。西南戦争で従軍記者をした犬養毅とは、同業の誼を結んでいた阿部は、伊藤博文や西園寺公望ら元勲を近代政治家と呼び、敗戦前後の宰相・有力政治家を現代政治家と呼ぶ。
 そういう年代の人だから、この際と思い「現代政治家論」と併せて買ってきたら「近代」が面白くて読み進まない。自分の脳裏で出来上がっていた歴史上の人物の人間関係が一度根底から破壊される。山縣有朋をクソミソに言って従来の山縣観を訂正しないと、明治以降の歴史が判らないものになるだろうと書いている――こんな読書を楽しいと言わずして何が楽しいものか。この人の文は真に憂国の情から出ているものだ。

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