岡田純良帝國小倉日記

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気になる本――「もう、感情を抱くような境地にはいないよ」
2月23日
気になる本――「もう、感情を抱くような境地にはいないよ」
 「シリア難民 (原題The New Odyssey)」[Patrick Kingsley著, ダイヤモンド社]
 2015年、著者のPatrick Kingsleyは、「the Guardian」の記者として17カ国を旅して圧倒的な難民のレポートを書き続け、昨年5月にまとめた原書が話題になった。
 先日触れたアメリカのNBCの記者のRichard Engel(1973年-)には及ばないにしても、憑かれたようなレポートが紛争地域からガンガン飛んでいた。若い記者だが、コイツは凄い腕だと感じていた。NCTJ(the National Council for the Training of Journalists)を修了した本格的な記者修行をしてはいるが、若いのに命懸けの潜入取材をするのだ。
 並外れた嗅覚、コミュニケーション能力、そして交渉力がある。まるで映画の世界だ。
 「イギリスの高級紙『ガーディアン』の難民問題の担当記者のパトリック・キングスレーが、欧州に密航しようとするシリア人に密着取材して」
 彼はシリアからスェーデンへの難民の旅に密着する。余計なことだが、この時の経費は当然、取材費として落とされるわけだ。それが許されるのに、日本ではお国の機密費が許されないのが不思議だわ。そろそろそういう幼稚な議論は卒業したいわね。
 「著者は欧州、中東、北アフリカの各地を取材して、この問題の鳥瞰図を描いている。タイトルは『シリア難民』だが、記述は現在の難民問題の全体像を射程に収めている」
 確かに、シリア問題だけではない。だから、この邦題は内容と合っていない。

         「The New Odyssey」(2)

 さらに言えば書評からは漏れているが、エジプトのIsmailiaにある秘密刑務所の存在も明かしている。Suez運河の開削で有名になった美しい都市だが、400名を越える人々が法的な手続きも踏まえずに幽閉され、拷問を受けている。
この状況をAmnestyなどは告発しているが、無論、改善の兆しは無く、彼らの人権は全く保障されていない。政情が不安定になって以降、エジプトでは2万人近い逮捕者が出ているという説も彼が抜いている。
 そのような反動抑圧状況の中で、37名が警察車両の中で政府・警官に殺人ガスによって殺された事実も暴いた。アフリカの大国・エジプトでさえも、制服姿の警官が抵抗者を秘密刑務所に送り、大量殺人をしている事実を次々に現場から書き送った。今、そんな記事を書き送れる日本人記者はどこにもいない。記者として生まれついたような男だ。
 当然、こんな告発を続けていたら命が危ない。どうして命まで懸けて取材を続けるのか。
 「なぜ難民が発生するのか。それは、シリアにしろエリトリアにしろアフガニスタンにしろイラクにしろ、難民の出身国の状況があまりに酷いからだ」
 2013年に23歳でトルコ支局の記者となり、中東各地から猛烈に記事を書き送り、毎年、重要な記者賞を受賞してきた。こういう人をアメリカは放っておかないから、とうとうアメリカを代表するメディアに呼び寄せてしまった。2017年、「the Guardian」を離れ、お隣の「The New York Times」のトルコ支局長に転職した。まだ27歳。
 派手に書きまくっていたスター記者なのに「the Guardian」は引き止め切れなかったのか。それとも「The New York Times」の示した条件が眼もくらむほど良かったのか。本書も売り上げは難民救済の基金へ流れる仕組みになっている。
 「I need to get the quotations I need, I need to count the number of bodies, I need to see where these people have been wounded and then once I’ve got the information I need, I’m going to get out as soon as I can for my own safety」(話を聞き、死体を数え、負傷者を観察して、やることをやったら直ぐに安全にそこから脱出するだけさ)

        Patrick Kingsley

 極めて優秀な欧米の若い記者たちは、だからこそ、危険な臭いに吸い寄せられてしまう。1960年代、VietnamのSaigonに優秀な記者が世界中から集まった。あの歴戦の記者のように、血の臭いに敏感な猛者たちは、今ならEgyptのCairoかTurkeyのIstanbulに集まっている。無謀なことをせず、是非とも生き残り、後々、歴史書になる大部の本を書いて欲しいものだ。
 「Gain nothing by panicking or getting scared. I almost zone out of an emotional state」(パニックや恐怖は何も生まないよ。もう感情を抱くような境地じゃないんだ)
 彼には、畑違いの兄がいるのではないかと想う。Fat Boy SlimらのVideoを撮っている映像作家のTom Kingsley(1985年‐)。年恰好がPatrickと良く似ている。Cambridgeつながりでもあるし、そうでないかと見ているが、事実かどうか調べ切れなかった。
 著者紹介にはこうある。
 「▼著者は英『ガーディアン』紙の移民問題専門のジャーナリスト。これまでに25カ国以上からリポート記事を発信」
 書評は2月5日付けだが、もうこの時には、すでに「the Guardian」を去った後だ。彼の武運を祈るや切。(『この一冊』放送大学教授・高橋和夫評、日本経済新聞)


追記
俺が辞めようとするとうるさいんだ。どこまで言えば気が済むんかいねと想うけれども。さて、これからは色々あるけれども、やってやるか、もう、思い切って寝ちまうか、ってなところで。
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