岡田純良帝國小倉日記

<< 手元にある本――「密航定期便」に残された高度経済成長期の日本社会の裏面(下)。 | main | 亜細亜紀行で忘れられているもの。 >>
今週の気になる本――「この、三百代言め!」(上)。
9月16日
今週の気になる本――「この、三百代言め!」(上)。
 「私の開高健」[細川布久子著, 集英社]
 死後、20年以上も経って分かった作家の虚構。参ったぜ。
 こちらには、「夏の闇」で、佐々木千世(子)との恋愛を清算したはずの「ご存知、開高健」であったはずだ。そういうことになっていたものだから、こちらもすっかり騙されていた。というよりも、そういうことだとこちらが思い込んでいただけなのだけれど。天晴れ、開高健。この、三百代言め!
 佐々木千世は、1971年(昭和46年)3月末、多摩川の堤通の路上で、反対車線を走ってきた自動車と友人の大学教授の運転する車が正面衝突し、事故死したとこちらは聞いてきた。しかも、事故の時には、開高との恋愛関係はすでに終わっていた、とも。
 文学史的に言うと、「夏の闇」は1971年10月に「新潮」に掲載された書下ろし作品となる。千世の死を知った開高は、山中にこもって「夏の闇」を書き上げようとした。すでに女と別れた後で、その不幸な死を追悼しつつ、2人の過ごした濃厚な時間を追憶して書かれた哀悼の私小説とばかり思い込んでいた。
 手に入るあらゆるものを漁ってみても、そう読むしかないだろうと考えていたのだが、さにあらず。オホホのホなのよ。

            開高健邸ワインのコレクションボルドー産中心に。

 千世は1970年(昭和45年)の暮れに帰国して、2ヶ月ほど友人の家に滞在していた。その後、都内にアパートを借りて暮らし始めたのだが、3月24日に事故で死ぬ数時間前まで、都内某ホテルで開高健と閨房を共にしていたというのである。
 (う〜ん)
 そうなると、小説の骨格をなす、20世紀に生きる男はナニをよすがに生きていくべきか、という絶対的な命題について、じわじわと読み方が変わってくるだろう。これまでは、物語のその後について、読者は色々な空想をすることができた。それでも、2人は、もう続けていくのは難しいのではないかという予感が残る小説の仕立てになっていた。
 しかし、実際には日本とヨーロッパと遠く隔たっていても、2人は別れていなかったのだ。開高健の選択は生臭い。生臭いが、生身の人間の選択としてはよく分かる。理解できる。だからこそ、この人の最高傑作とされる作品の読み方が、根底から変わってしまう。

   「開高健」@Hotel Majestic。

 千世だけでない。「輝ける闇」に登場するサイゴンの愛人、素娥(トーガ)の姿も秋元啓一の撮った写真で確認している。秋元は伏せるように諭すが、著者は本書で、記憶を手繰り寄せ、アオザイ姿の素娥の姿をきちんと書き残そうとしている。
 「わいは性交やないねん。情交しとんねん」
 自分のセックスを、そう周囲に吹聴した男。
 しかしそんなジンセイの一大事の相手を、「『面白半分』臨時増刊号」「これぞ、開高健。」の巻頭対談の録音で、あの吉行淳之介に、直接、漏らしていたのであった。
 「四十二、三でえらい事件に出くわして……。早くいうと、前の晩、アレをしたりコレをしたりデタラメをしつくしてホテルで騒ぎまわった。その女が、翌日、交通事故で」
 それが救急病院で白い布を被っていた千世なのである。吉行との対談時、開高健はまだそれでも48歳であった。
 そんな話を呑みながら始めるのだから、千世とのあれこれで負った傷口はまだジクジク湿っていたということにもなる。本稿、明日も続く。(毎日新聞、日本経済新聞他、多数)


追記
某地におります。大相撲、日馬富士の綱とりはナニだけど、今場所は日本人力士の元気がいいのが目立っているな。それが嬉しいもんだ。俺は最近いつになくバルトな男になっているのだけれど、バルトな男も応援しているのにさ、テンで通じないんだもの。
まあいいんだよ。世間というのは分っていないんだから、分れというのがヤボ天なんだよな。大体、だからこうして下らない愚痴を書き殴ってウサを晴らしているのだから。さて、来月は3回ほど成田とか羽田とか、行かねばならんようだ。どうなっとるんだ、ニッポン。911の後、英語を使う機会も無かったというのに。
| 9本・記録集 | 06:43 | comments(1) | trackbacks(0)
スポンサーサイト
| - | 06:43 | - | -
コメント
こまかいとこだけど...
千世の帰国が69年末、事故死が70年3月24日じゃないすか?
記述が1年ズレてません?
| OZ | 2015/01/12 8:54 PM |
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://punkhermit.jugem.cc/trackback/3883
トラックバック
CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< December 2017 >>
SPONSORED LINKS
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
モバイル
qrcode
LINKS
PROFILE