岡田純良帝國小倉日記

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「人斬り」余禄――司馬史観と海音寺潮五郎。
6月19日
「人斬り」余禄――司馬史観と海音寺潮五郎。
 「人斬り」は司馬遼太郎の1964年(昭和39年)の「人斬り以蔵」を原作としている。
映画で仲谷昇の演じた姉小路公知は勝新太郎演じる岡田以蔵に斬られる。姉小路暗殺は維新暗殺史上の一つの謎とされるが、司馬史観は土佐勤王党説を取っている。
 先日、手元の海音寺潮五郎の「幕末維新の男たち(上・下)」[新潮文庫]で調べてみた。
 「誰かが斬らせ、誰かが斬ったには相違ないのだが、その誰かがわからない」
 確たる説は定まっていないのだ。しかし有力なのは、薩摩の配下、田中新兵衛の佩刀が現場に残されていたゆえの薩摩説である。
 「この刀は薩摩鍛冶奥和泉守忠重の作であり、こしらえも薩摩風である」
 しかし田中新兵衛が暗殺現場で自らの刀を投げつけて残すようなことをするかと退ける。
 次に幕府と会津説。さらには長州説。
 田中新兵衛は、武士姿をしていても、薩摩藩士ではなく、従って武家浪人でもない。
 「見せていただきとうごわす。とっくりと見せて下され」
 佩刀を受けとり、取り調べ中にいきなり切腹した。腹を刺した刀で、切腹を止めようとした奉行所の人間が飛び掛かる前に、一瞬で頸動脈を切っていたという。映画では以蔵の使っていた肥前の佩刀も、実は坂本竜馬の家に代々伝わる肥前忠吉を借りたものである。刀の貸し借りは日常であったのだろう。
 「(薩摩説の)反対説を支持する人々は、この事件の数日前に、新兵衛が三本木の料亭で、何者かに刀をすりかえられて、友人に語って口惜しがったという話を伝えている」
 司馬遼太郎が土佐勤王党説を取るのはゆえないことではないのだが、この田中新兵衛と土佐勤王党の武市半平太(仲代達矢)との関係には触れていないのが不思議だ。

「幕末動乱の男たち」2冊表紙。

 「成人した半平太の容貌を説明しておこう。彼は身長六尺、鼻高く、あご長く、眼中に異彩があり、顔面蒼白、深沈で喜怒色にあらわさず(ほとんど笑ったことのない人だったという)、音吐高朗、見るからに人に長たる威厳があったという」
 映画中の仲代達矢の武市半平太は、まさに本人を髣髴とさせるものがあった。
 とまれ木屋町二条下ルの河原で島田左近権大尉を暗殺し、田中新兵衛は一躍名を売った。
 「諸藩の志士の中では、おしもおされもしない人物と認められるようになり、薩摩人以外は、その身分を問題にするものはなくなった。
 土佐勤王党の首領武市半平太が、新兵衛と義兄弟の契りを結んだのも、この名声(?)のためである」
 「人斬り新兵衛こと田中新兵衛は半平太に傾倒することがわけて深かったが、やはり西郷とならぶべき人物であると言っている」
 権謀術数に長けた武市ではあるが義兄弟を裏切るリスクを取ったか。だから武市の命で盗んだ田中新兵衛の刀を使い、姉小路を斬ったのが以蔵という説はどうかと想う。
 「いのちを惜しんでかれこれ言いのがれすると疑われるだけだと思ったのであろう。
 『いのちなんぞ、少しもおしまんぞ。この通り』
 と、証明するために、いきなり腹を切ったのであろう。これが藩政時代の薩摩の武士の気風でもある」
 薩摩武士の末裔・海音寺潮五郎はそう記す。
 土佐郷士であった武市は暗殺者として使った以蔵が零落、強盗となって捕えられるまで、機会がありながら、手を下さなかった。獄中で毒薬の天祥丸を与えたのに死ななかった。しかも、最後は拷問に耐えられずに白状した以蔵によって半平太は切腹を申し付けられ、土佐勤王党は壊滅してしまうのである。
 海音寺潮五郎は司馬遼太郎を世に出すのに大いに骨を折ったが、後年、距離ができた。考えてみると、こういう細かい史実を追っていくと、その理由も分かるような気がするのではないかと想う。



追記
最近、電車に乗っている時間が多いじゃんけ。ポメラみたいなのは目にキツいし、文庫も読んでいると疲れるので、だけど新聞ならまぁ、読み飛ばせる。その伝では、相変わらず時間は無いけれど、今も限られた日経と讀賣の書評は目を通している。
今、最もシブい言葉を発しているのは、朝吹真理子ではないかと思わせられている。これは別稿にて。いやはや刺激されるなぁ。
| 1ミシマ | 07:05 | comments(0) | trackbacks(0)
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