岡田純良帝國小倉日記

Film Noir――死の接吻から川島雄三へ。
3月25日
Film Noir――死の接吻から川島雄三へ。
 「心に残る人々」[白洲正子著, 講談社文芸文庫]を再読し始めたら、いきなり冒頭の「小林秀雄」の次の下りで驚いて立ち止まってしまった。
「小林さんはしきりにリチャード・ウィドマークを褒める、といったら若い人にはピンと来るものもあるかも知れませんが、役者の名前はそれだけしかご存じないようだから当てにはなりません」
 小林秀雄がRichard Widmarkを贔屓にしたなんて、ちょっと、信じられない。
ま、白洲正子も元々とぼけているところがあるから、話の種の一つに挙げているだけか。そうであっても、どうして小林秀雄がRichard Widmarkなのか不思議だ。

      Richard Widmark (2)

 白洲正子は小林が褒めていたのは「ねらった男」だと書いているのだが、「ねらった男」という映画は探したけれど見つからなかった。「あの高地を取れ(Take the High Ground!)」の勘違いだろうか。
 一般的には軍服の軍人か西部劇のカウボーイ役かどちらかの印象が強いんだろう。実際、「あの高地を取れ」でもアメリカ陸軍の鬼軍曹役だった。小林秀雄とRichard Widmarkという連想は俺の発想にはまるで抜けている。昭和29年(1954年)3月に書かれているので、この頃にはもうRichard Widmarkは善玉に転向していただろう。
 けれど、俺には、Richard Widmarkというと、デビュー作の「死の接吻」でのサイコな役か、この「Madigan」で演じた刑事役か、どちらかという感じがある。サイコか刑事って、両極端だけれど、この人はやっぱり巧い。どんな役も外れという感じがなかった。
 知らなかったのだが、西村京太郎作品の十津川省三警部のモデルという話もあるそうだ。しかしRichard Widmarkはあまり警視庁刑事部捜査一課に所属する警察官という感じはしない。

Madigan!

 「Madigan」はManhattanのSpanish Harlem地区を所轄するMadigan刑事のドラマだ。Donald Siegelの映画は好きだった。Don Siegelは苦労人で、B級の映画作品監督を長くやったから低予算で短期で撮影を終えるため、映画も自然にテンポが良いものが多かった。
 刑事ドラマというよりも人間ドラマという感じだったけれども、後年の大作もやっぱりどこかにB級映画の匂いがあるわけだ。「Dirty Hurry」でも組んだClint Eastwoodの監督作品、「Gran Torino」はちょっと「Madigan」に似ていると想った。
 1950年代のB級映画は、日本未公開のものが多いのでDon Siegel作品も、同じようにその頃のB級作品はあまり見ていない。えらそうなことは言えない。観たい。調べてもDVD化されていなかったりするのが残念だ。
 あの時代のB級犯罪映画というと、Film Noirと重なる。Stanley Kubrick(1928-99年)の「現金に体を張れ(The Killing)」(1956年)とかOrson Welles(1915-85年)の「黒い罠(Touch of Evil)」(1958年)などが思い浮かぶ。「マルタの鷹(The Maltese Falcon)」(1941年)以来のFilm Noirか。

     Richard Widmark (1)

 何れも大監督の作品だから、低予算でなかったかも知れないが、タッチがB級っぽくて好きだった。特に再評価後に観たのが「黒い罠」。噂通りの冒頭の長回しにビリビリ来た。映画はBrusselsの万博で上映されて、Jean-Luc Godardや François Truffautに大うけに受けた。それも、何となく解る気がする。
 1950年代のハリウッド大作は甘っちょろいメロドラマが多かった。シリアスでリアルな感じがあまりしないわけだ。それが、「現金に体を張れ」や「黒い罠」はちょっと良かったな。Film Noirだ。同じ時代の日活アクションも通じるものがあった。
 初期の日活アクションは、プログラム・ピクチャーに走る前には、「錆びたナイフ」とか「俺は待ってるぜ」のように、社会正義的なものがあった。ちょっとElia Kazan(1909-2003年)の「波止場」のような雰囲気もあったか。
 話は飛び飛びになるのだが、「黒い罠」を観た後、川島雄三が、「幕末太陽傳」(1957年)や「貸間あり」(1959年)で、クレーンに乗せたカメラで、豪快な面白いショットを撮っていることに気付いた。
 (やってるなぁ)
 川島雄三の映画を観ると、新しい試みをやっていたことに感心させられる。川島雄三の作品もボックスセットで欲しい位に好きだ。


追記
東京向けに内職。明日はパッキング。だけど、あんまり特別にはせえへんねン。パンツ洗ってシャツをプレスせんと。ワーヤ。ロンドンは桜が終わりや。木蓮みたいなんが満開。あと北海道で見る背の高い木に白い花が満開。行き帰りの往復でつい立ち止まってしまう。

追記の追記
以下は応援しているバンタム久保君のインタビュアからやねん。

「趣味は全くないし、テレビは一切見ない。遊びにも行かない。お金は必要最低限あればいらないと思っているし、使うこともない」
「会長、ジム、応援してくれる皆さんへの感謝の気持ちとして、ベルトを取りたい」
4月、タイトル戦、期待しています。俺が空を飛んどる間に決まるさけ、観られんのやわ。
| 9本・記録集 | 15:47 | comments(0) | trackbacks(0)
気になる本――阿部眞之助の目線。
3月18日
気になる本――阿部眞之助の目線。
 「近代政治家評伝」[阿部眞之助著, 文春学藝ライブラリー]
 前に挙げて、ネットで注文しておいて、今年の正月に日本に帰国した折に持ち帰った本。阿部眞之助は戦前、「東京日日新聞」の主筆で戦後はNHK会長であったが、元々1908年(明治41年)に「満州日日新聞」に就職して以来、一貫して敗戦前まで政治・文芸関連記者を続けたジャーナリストだった。今日ならデスクとか編集局長とか、ラインの肩書きで、だが、終生、一貫して取材対象者とは深く交わった。駆け出しの若い時代には政治部で犬養毅、社会部長で吉川英治、休職すると、窮した挙句に人物論を手掛けるようになる。
 復職後、学芸部長で菊池寛、久米正雄らと親しく付き合って、これらが彼の生涯を貫く財産となった。本書巻末で東大教授の牧原出(1967年-)が「政治部記者経験の集大成」と題して記している通りと想う(牧原も政治畑でオーラル・ヒストリーを伝承する1人)。
 つまり、今で言う、編集委員、論説委員、論説主管・主筆という流れで、戦後は公職を兼務した。本書は1952年(昭和27年)1月から「月刊文藝春秋」に1年間連載されたもの。だから対象は12名。明治の元勲の評伝だ。

      「近代政治家伝」表紙。.jpg

 我々には遠い存在の元勲だが、阿部眞之助(1884-1964年)にとってそれほど遠くはない。現実に身近に取材し、接した人間が殆どであり、その謦咳に接した人間しか描き得ない、短いが、強烈な描写があってビリビリ痺れる。
 「私は新聞記者をして、多くの人と顔をみてきたが、あんな薄気味の悪い顔をみたことがない。冷々として無表情で、偶々笑えば、死人の笑いとなった」
 これが山縣有朋の横顔である。観た人間だから書ける主観で、観た者は絶対である。
 「こんな寂しい生涯を、八十五年も堪え忍んだのは、ただこれ彼の権勢欲のさせたこと」
 誰かが書評でこの部分を引いたが、そんなものよりも、「あんな薄気味の悪い顔」とか、「偶々笑えば、死人の笑いとなった」という寸鉄の方が彼の生前を彷彿とさせる。
 さらに言えば記者として当時の社会的な関係性を観ている。従軍記者として、1919年(大正8年)秋の陸軍特別大演習を対象天皇陛下の至近で観た時のこと。
 「丘の下から一人の老将軍が馬でやってきて、馬から飛び降りると、そこに居合わせた幕僚は、謹厳そのものの如くシャチコ張って、挙手の礼をした。陛下も手を挙げられた。老将軍は軽くこれに応えた」
 戦前であるから、天皇が馬上から降りた臣下に挙手することは「絶対にあり得ない」こと。「絶対に起きてはいけない」ことを阿部は目撃している。無論、そこに居合わせた記者は申し合わせもせず、「そんなヤバイこと」は書かなかったし、書けもしなかったはずだ。
 巻末の牧原解説では、後輩の大宅壮一が、阿部眞之助を評した一文を引いている。
 「阿部眞之助くらい善良で、臆病な人を知らない(中略)。それでいて彼には不思議に強い一面があった」
 阿部は「満州日日新聞」ではストライキ騒動で馘首され、「東京日日新聞」では誤報事件で「大阪毎日新聞」に呼び戻され、社内抗争に巻き込まれ休職する。6年間の休職後に「東京日日新聞」に復職して主筆にまで昇進するが、戦争中は執筆できなかった。牧原は「抗争の前線に立ったと言うよりは、不本意ながら巻き込まれた結果が、転職、休職、抜擢となって現れたのであろう」と書いている。さらに俺はここに休職中に始めた人物評論と、太平洋戦争中に「書かなかった」態度の2つが彼の場合には奏功したと想う。大宅壮一に言わせれば「不思議に強い一面があった」というのは機に応じる態度ではなかったか。
 なお本書では「明治十四年の政変」という言い方が度々出てくる。ドイツ流のビスマルク憲法(長州・伊藤博文&井上馨)かイギリス流の議院内閣制(肥前・大隈重信)かで政府内が抗争した事件。政府と言ってもこの時は太政官制だから岩倉具視ら公卿にも力があり、参議で「薩長土肥」から成り上がった元勲が加わったが、まだ国会は開設されていない。西南戦争で従軍記者をした犬養毅とは、同業の誼を結んでいた阿部は、伊藤博文や西園寺公望ら元勲を近代政治家と呼び、敗戦前後の宰相・有力政治家を現代政治家と呼ぶ。
 そういう年代の人だから、この際と思い「現代政治家論」と併せて買ってきたら「近代」が面白くて読み進まない。自分の脳裏で出来上がっていた歴史上の人物の人間関係が一度根底から破壊される。山縣有朋をクソミソに言って従来の山縣観を訂正しないと、明治以降の歴史が判らないものになるだろうと書いている――こんな読書を楽しいと言わずして何が楽しいものか。この人の文は真に憂国の情から出ているものだ。

| 9本・記録集 | 06:13 | comments(0) | trackbacks(0)
気になる本――いとはんの苦難、ねぷたのリズム。
3月17日
気になる本――いとはんの苦難、ねぷたのリズム。
「大卒無業女性の憂鬱」[前田正子著, 新泉社]
 常に感じられる関東と関西の違いは関西の「いとはん」の存在だ。「いとはん」がおると、ははぁ、関西も保守的なところがあるさかいなあと想い出させられる。
 大学を卒業して家事手伝いをしている女性は、それでも昔はお見合いがあった。しかし、今は、非婚はもう珍しいことではなく、常態でもあるから、結果的に未婚無業の女性が増えている。それがどうやら課題の本らしい。
 「『女性の活躍』はこれからの日本に欠かせないテーマだ。本書はとりわけ関西に住む大卒女性に焦点をあて、現状と課題をまとめている」
 昔は「神戸女学院」のような大学では進路をあまり公表していなかったが、そういえば、「家事手伝い」が多かったからだろうか。今はそんな時代ではないけれど、大学の公表の数値からは、就職を希望していない人が卒業生の内100人ほどいる。就職先は圧倒的に航空会社か金融が多い。

      長嶋有の薦める「和嶋慎治」自伝。.jpg

 しかし、進学校の付属高校で進学先の大学を公表しなくなった理由と違って、大学まで出ても就職を希望しない人が100人もいる。関東で言う、フェリス女学院の大学と付属高校の関係にも似ているか。
 航空会社は派手だけど保守的だ。娘や息子の教育に熱心な人が多いものだが、意外にも芸術系のようなやや外れた方向には子供を進ませないように説得したりする。我が家は、完全にゲージツ・美系へとっぱずれてしまったが、親がこれだからどうしようもない。母親も父親も趣味は多くの人が好むスポーツ観戦もハリウッド映画も好みではないし、あくまでインドア目音楽科ロック属。その先はグラム種とパンク種に分かれるわけだが、あくまでマイノリティー。
「屈折くん」[和嶋慎治著, シンコーミュージック・エンターテイメント]
 「人間椅子」のギタリストが自伝を書いたことを「半歩遅れの読書術」で長嶋有が紹介していた。オタクの極北という感じもある。やっぱり売り方もオタク。予約販売のみの限定版があって、アマチュア時代の未発表曲を含むCDRに加え、限定復刻版ギターピック、著者自ら考案した「屈折くん」ステッカーとバッジ付きというものだ。

「屈折くん」と和嶋慎治近影。.jpg

 この人は弘前高校だから、ちょっと屈折の度合いが違ってくる。ホンモノのネィティブ弘前人同士の会話は殆ど俺にはハングルに聴こえ、ヒヤリング不能な方言の一つだ。
 「『あずましい』はCozy CornerのCozyと同じ意味なんだ」
 昔、弘前の単語を俺に教え込もうとする弘前高校のOBがいた。その父親も弘前高校で数学を教えていたから和嶋は教え子だろう。そのOBも、鈴木研一や和嶋慎治と同じくハード・ロックの大ファンだったのだ。
 和嶋慎治のファン層と違うのは、俺も“偉大なる我が女房”も、ステッカーやバッジを有難いとは思わないし、限定品を集めるコレクターではないことだ。
 メジャーなミュージシャンで我が家で音源があるのはDavid BowieとQueenくらいか知らんね。Beatlesは初期のものしかデジタル音源は無い。Rolling Stonesも絶頂期の70年前後の数枚だけ。
 スポーツ観戦は敢えて挙げれば大相撲。ボクシングは観戦は好きだけど、特定の選手やタイトル戦に限られるかも知れない。そういう意味ではマイナーなファンだろう。
 そういうこともあるからだろうか、ロックは全部好きですとか、そういう人とはどうも話が合わない。日本はロック世界という大括りの異次元空間があるようだが、苦手だ。
 「Fuji Rock」でも、ロックなら何でも大好き、というオーラ満々の人たちと行き会うからこちらはツライ。Bluesも何でも好きです、という人もいるけれど、俺はBluesは全部好き、というわけではないからまた違う。John Lee Hookerも好きなVocalistだけど、電気増幅したバンドの音が一番好きなのだ。

     特典、「屈折くん」ステッカー・シート。.jpg

 Sex PistolsだってSid Vicious時代よりGlen Matlock時代の方が好きだった。昔からバンドマンの間ではジョーシキだったけれど、見方としてはマイノリティーでしょう。
 ひねくれているわけではなくて、好みが狭いんだろうと思うんだけど、それ、ロック・ファンという概念からすると、ちょっと外れるだろうし。
 ニッポンでロック・ファンを自認する人はかなり保守層と重なるんじゃないかと前から疑っている。俺は本来的に保守層でなくリベラルと思っているけどね。おっと俺の話は全く関係無いか。オホホホホホホ。
 「そういえば高校2年の頃のあだ名が“屈折”だったなって。その後の人生を表している言葉だし、なおかつ難しくなくてポップだし。それで『屈折くん』」
 和嶋慎治は弘前高校時代のあだ名を自伝のタイトルにした。その和嶋の2学年上にいた友達は、聞いてもいないのに何時も口癖のように言ってたっけ。
 「ハード・ロックはねぷたのリズムと似ているんだよ」
 弘前人らしい開き直りが忘れられないぜ、35年経っても。「人間椅子」のファンだろうな、アイツなら。弘高ハード・ロックはねぷた直伝の正統なのだ。多分。(日本経済新聞)


追記
荒れる春場所だけあって、いよいよ荒れまくってますなぁ。大阪の諸兄も座布団ブン投げてらっしゃることやろね。勢が大金星の翌日に土を付けていて、まぁ、阿吽というヤツか知らんけど。
日々行き帰りはチャック・ベリーとエルビス・プレスリーという、黒白取り混ぜて王道を行っております。桜はそろそろ散り始めていますわい。

追記の追記
「パリ⇒マルセイユ」⇒映画「ギャング」⇒フィルム・ノワール⇒パルプ・マガジン⇒ブラック・マスク⇒小鷹信光⇒早稲田ミステリクラブ⇒仁賀克雄⇒切り裂きジャック⇒錆びたナイフ⇒仁義なき戦い⇒美能幸三⇒カタギ説諭事件、とまあ走馬灯のようにぐるぐる回った数日なのだった。ウッフッフ。
| 9本・記録集 | 08:10 | comments(0) | trackbacks(0)
気になる本――ドラッグは自己管理できるか。
3月16日
気になる本――ドラッグは自己管理できるか。
 「ドラッグと分断社会アメリカ(High Price)」[Dr.Carl Hart著・寺町朋子訳、早川書房]
 こちらは日本風に言えばCarl Hart博士(http://drcarlhart.com/)の更正の物語である。
 書評には「著者は66年米フロリダ州マイアミ生まれ。コロンビア大心理学科長。専門は神経精神薬理学」とある。もっと有体に言えば、Miami, Floridaのストリート・ギャング出身の黒人初のColumbia Universityの心理学博士号取得者だ。
 「実際の中身は彼の回顧録である。著者はマイアミの貧しい黒人居住区の出身だ。万引きそのほか数々の軽犯罪のほか、麻薬の売人をやっていたこともある」

Carl Hart smoking Dope.jpg

 「面白半分に銃を通行人に向けるような人間だった彼を、他の仲間たちと違う道へと誘ったものは『クール』であろうという強い自己意識だった。あとは団体スポーツへ打ちこむことで練習を積み重ねることの重要性を理解していたこと、祖母が学業を重視していたこと、そして空軍への入隊だ」
 著者は高校ではバスケット・ボールの有力な選手だった。というよりも、俺にとっては無名時代のRun-D.M.C.と組んでいた方が面白い。様々な可能性を秘めていたわけだ。
 アメリカは多様性を受け容れる。思想的には著者と真逆になるが、別の男も思い出す。両親がCuba移民で、身内にCuban Syndicateのギャングを持ち、本人もストリート・ギャング崩れの現共和党上院議員のMarco Rubio(1971年-)。1年前は共和党で大統領の座に最も近いと見られていた男だ。彼も何度か逮捕されたことがあると言われているが、今は家族愛の復権と銃規制反対、中国への強硬姿勢を掲げている。
 タイトルは分断社会とあるが、アメリカの良いところは、変わる人間を認めることで、変わろうとする人の努力を嗤わず、自分を乗り越えようとする人を称えることだろう。アメリカの美徳の最たる部分だろう。レッテルを貼ったらそれで終わりというのが世の常識だが、アメリカは過去は過去として今のその人物の心情と行動と言葉で評価する。他の国にはあまり見られないことだ。
 昔はヤクの売人でもあったが、今はColumbiaの教授である著者の主張はこうだ。
 「必ずしも薬物摂取がそのまま依存に繋がるわけではないことを示している」
 だが、評者もこう記す。

           Carl Hart at Air Force.jpg

 「著者は自らの経験をもとに薬物撲滅は非現実的であるとし、非犯罪化を提唱している。合法化とは違うのだが、やはり、そうはいかないだろうと思わざるを得ない」
 この辺りの社会の許容の度合いがアメリカは深い。日本はどんどん狭くなっていく一方。人が育たなくなってしまう。そうでなくとも減る一方の若い人の可能性を摘んでしまう。それが俺はとても気になっている。
 書評でも気になる部分が、犯罪歴のある人間が博士号を取って大学教授にまでなったと何度も書いてあることだ。そのくらいの教授はナンボでもおります。弁護士だっている。医者もおります。
 「誰もが乗り越えられるような低い壁ではない。だが著者は実際に抜け出して大学教授にまでなった」
 NHKを辞めてフリーランスになった評者はこう書く。

         Run D.M.C.

 日本では、メディアで発言する人の視界が狭いことが多いことも、日本社会の息苦しさ、生き難さを加速させているのかな。世の中を知らないで思い込みで取材をする人が多い。取材をしている現場のナマの言葉に、本心からは耳を傾けていない人たちが多いのよ。予めストーリーを決めて、自分のストーリーに合う部分だけを切り出す人がとりわけTV局には多いことを俺は知っている。
 そんな番組を見て身を竦め、身の丈を縮めてしまう若い人がいるのが残念でならない。俺なんか何度挫折したことか。十代で事故死したのは何人かいる。収監されたのもいる。
 「拳銃は近くから撃たないとタマは当たらない」
 そう言いながら酒席で俺の腕を取って教えてくれた人もいた。そういう世界から出てもカタギで生きていける。評者の言う壁を乗り越えてきた人はとても多い。
 本書は、更正物語ではなく、彼が薬物はアルコールと同じように人間の社会生活と共に共存可能だと主張しているところを買うべきだ。著者は社会の先入観と闘っているわけ。セックスや自動車の運転と同じようにドラッグも若い世代に扱い方を教えてやるべきと言っている。それほどドラッグは手近にあるわけだから。
 日本は、犯罪報道で一生を棒に振った人がどれほど多いことか。メディアにいる側は、元売人として見るのではなく、今のその人間の主張に、もっともっと光を当てて欲しい。そうでなければ彼は悲しむだろう。(サイエンスライター・森山和道評、日本経済新聞)


追記
NHK記者がまた強姦事件でっせ。何だかねえと思う訳。組織自体が弛緩してんじゃねえのかなあ。どうしたって邪推をしてしまうわねえ。そんな組織のために受信料支払いたくないと感じる人が増えているのもよく分かるよね。
俺は番組がイヤんだよね。NHK全体にトーンが暗いから鬱になってしまいそうだもの。しかも暗いか気が違ったように弾けてはしゃぐかどちらかしか無い。子供みたい。
その点、自己管理という面では下記の方は20世紀の芸人の中でも徹底的に自己管理をした人だと想いますね。誰だか分かるかな?

Chuck Berry (2)
| 9本・記録集 | 07:04 | comments(0) | trackbacks(0)
気になる本――足りるを知るものは富む。
3月14日
気になる本――足りるを知るものは富む。
「超監視社会」[Bruce Schneier著・ 池村千秋訳, 草思社]
 今日は祖父の祥月命日。合掌。41年前の18時43分に国立大蔵病院で死去した。
先日はEdward Snowdenのことであれこれ考えたけれど、どーでもよくなってきた。金や資産を盗まれるのはイヤだけど監視したいヤツはご随意に。どうせ監視されたって大したものは奪えない。俺の心は奪えない。「Can’t Buy Me Love」だわな。
 本書も、監視者の存在を指弾するもので、原題は「The Hidden Battles to Collect Your Data and Control Your World」なんだけれど、多分、ネットの世界が大きく拡がって、金融決済のようなものが全て仮想空間で行われそうな状況になる時に、これらの問題は世界的な課題として議論されるように想う。どうせまた新しい枠組みを越え、あらゆる艱難辛苦を乗り越えたいと希求する違法な使い手が現れるんだろうけれどさ。法を破ることは麻薬と同じ快楽でもあるからな。(日本経済新聞)
「世界と僕のあいだに」[Ta-Nehisi Coates著・池田 年穂訳, 慶應義塾大学出版会]
 本書はアメリカで4年ほどいて学んだ深い闇を照らす本だ。イギリスやフランスよりも超大国のアメリカ合衆国が劣っているのは、未だに激しい黒人への人種差別が行われていることだろう。あまり口にしたくもないけれど、本当に、酷いことだ。教育の機会、雇用の機会が予め限られている。彼らは先住民が居留地に押し込められているように、都市の中のGhettoに押し込められている。

Black Panther Party Logo.jpg

 「著者は思想家や詩人でもある。父は黒人教育の名門ハワード大学の司書を務め、左翼的な解放闘争で知られたブラックパンサー党員だった」
 「息子が生まれる少し前、ハワード大学の黒人学生が警官に射殺された。それが著者の怒りの発火点になった。時を経て2014年、黒人生年を射殺した白人警官が無罪になった事件に息子が衝撃を受ける。著者は、それこそが米国という国の伝統と論理なのだと伝え、闘い続けろと説く」
 本書のようなリアルな叙事詩を、21世紀の日本人は持つべきだ。覚醒する時だ。例えば某新聞を読むと投稿欄に衝撃を受ける。在日外国人はアメリカの黒人と同じと言う声がある。紛争地域に派遣された自衛隊は危険だから帰任させろと言う声も。アメリカ軍と国連軍の背負うリスクに日本一国だけ無賃乗車を何時まで続けるのだろう。自分は安全地帯にいてキレイ事を言い続ける人が人の尊敬をかち得るだろうか。視野を広く持ち、権利を主張するよりも、まず「義務」の方を先に考えて行動すべきだ。(日本経済新聞)

    The Black Panther Vol.01.jpg

「フリートレイド・ネイション」
 ということをツラツラ考えて、かくいう自分の暮らす土地でBrexitを振り返ってみる。
 「イギリスでは、『自由貿易』はたんなる経済政策ではなく、多くの集団や個人によって支持され、社会正義を体言するものとして一種の『信仰』の域に達していた。いわばイギリス固有の『政治文化』となっていたのである」
 「19世紀末、多くの欧米諸国が保護貿易を採用するなか、イギリスだけが強固に自由貿易を維持した」
 「自由貿易は、平等や正義を実現するものとして、階級、性別、人種などの違いをこえて、様々な社会運動の集団に支持されていたからだ」
 これまでMargaret Thatcher(1925-2013年)は救世主のように言われてきた。彼女のMonetarismがCitiの繁栄を産み出し、同時に日産のサンダーランド工場の誘致に象徴されるように、外国資本を呼び込み、その結果、自国の基幹産業・民族資本を駆逐した。他方、現在の日本は、他国が無いかの如く極めて不健全で利己的な振る舞いをしている。
 軍隊を使わずとも、サイバー空間の戦争状態は悪化の一途を辿っている。奮励しないと座して死を待つばかりと思うが、同時に我々極東アジアの人間には「知足者富 強行者志有(足るを知る者は富み、強を行う者は志あり)」という美しい思想もある。つまるところ、「中庸」ということなんだろうが、この塩梅が難しい。(日本経済新聞)


追記
おみゃーわしサファイア王子になっちゃっただら。うわーん、もう、静かだったファーストクラスラウンジも、もーこれでさよならだがやー。わーやだで。


追記の追記
ユキヒョウの写真が出ましたワイ。これは別稿で挙げますけど、美しいねえ。ま、寝るワイ、わしゃ。
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気になる本――黒映画って?
3月9日
気になる本――黒映画って?
 「最も危険なアメリカ映画」[町山智浩著, 集英社インターナショナル]
 昨日のEdward Snowdenが告発したNSA/CIAの盗聴・監視についても絡みそうな話だ。
 アメリカの映画にWhite Knightの「白映画」とBlack Knightの「黒映画」があって、そのドス黒い映画を解説しようという企みの一書である。
 評者の宮部みゆきさんは映画の中でもよく意味が分からないものがある。
 「その『?』を解消してくれたのが、本書の著者の町山智浩さんの『<映画の見方>がわかる本』と『ブレードランナーの未来世紀』だ」
 「二○○一年宇宙の旅」と「地獄の黙示録」が何度観ても難解で分からなかったのだという。作家はストーリーを追い過ぎて、破調・転調で着いて行けなくなってしまうのだろうか。俺など肩肘を張らずに観て細かいところは意味が分からなくとも全体が感じらればいいように想っている。引っ掛かるところは何れ時が来たら分かる、と考えるタチ。
「本書もまた。基本的には町山さんによるスリリングなアメリカ映画の分析・解読だ。ただ今回ちょっと特殊なのは、取り上げられている作品が『アメリカの黒歴史』とでも呼ぶべきテーマを内包していることである」
 「先住民の悲劇、苛烈な人種差別、アカ狩り、戦争と兵士のPTSD、メディアに乗っかる伝道師、黄金の五○年代の裏面、暴走するポピュリズム――全体に地味な作品が多いし、いつもの町山さんの著書のように、読んだらすぐワクワクとその映画を観たり観なおしたくなるとは限らない(あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』さえも!)」
 「この数々の危険なアメリカ映画に描かれている黒歴史のうち、まだ私たちの国には(かろうじて)刻まれていない要素は何だろう――と考えると、だんだん恐ろしくなって」
 俺が立ち止まってしまうのは、こういう下り。

       「最も危険なアメリカ映画」表紙。.jpg

 先住民の悲劇、人種差別、アカ狩り、戦争と兵士のPTSD、メディアに乗っかる伝道師、黄金時代の裏面、暴走するポピュリズム、全て日本も辿ってきた道だ。これを黒歴史と言うのは筋が悪い。世の中、そういうもので、それも含めての歴史なのよ。止むことは残念だけど、無いだろう。
 言いたいのはいいことばかりじゃないということだ。この15年ほどは、世界各地への重火器・拳銃の流通、人身売買の横行等、地域紛争が激しくなり、内戦状態に近い国や地域が不幸にも広がる一方と感じている。時代がどんどん悪くなっていることも確かだ。理想論ではなくこれを改善するために身を粉にしている日本人が多いことは頼もしい。
 それともう一つ。Edward Snowdenの告発した件の付け足しになる。盗聴やハッキングは常態なら違法行為だけれども、「天国と地獄」では初めて警視庁の協力でその逆探知という手法が映画の中で使われた。犯罪捜査で、逆探知を「暗黒」と呼ぶ人はいないだろう。
 だから、例えば、仮想敵との緊張状態が高まった時でもないのに常態で爪を研ぐことを悪と観るかどうか。俺は必要悪と観る。それを悪と観る方に共謀罪の意味は分からない。反対派の多くは深く考えていない。極めて少数の深く考える人の中に危険な策謀を張り巡らそうとしている人がある。だから反対するということを真剣に考えて欲しい。
 ま、“いわゆるひとつの”小生の周辺には、
 「おう、やれい、やれい、やっちゃれい!」
 電話口で叫んだだけでパクられたセンセイがいたぜ。昔はそれでも黙ってお縄についた。それって悪かよ。ねえ、そこのアナタ、そう、そこのアナタのことですよ。
 話を戻す。
 知り合いで、年に数回、はるばる遠くからやって来て話し込む男がいる。何時も、大意、次のような大口を叩く男さ。
 「世界に冠たる国の条件は、(1) 国際通貨、(2)世界共通言語、(3)強大な軍事力の3条件」
 「現時点で先進産業立国の条件は (1)大○、(2)新○、(3)○力、という3分野の開発能力」
 条件は日々刻々と変わっていくが、その重要な指標の一つにこの人物が挙げているのがハリウッド映画なのだ。
 「毎回、ディズニー映画の新作は俺は真剣に観るよ」

「Em on Down」スチール。.jpg

 「あれは深読みすれば必ずメッセージがあるからな」
 ヤツは歌や踊りで繰り返されるフレーズをメモに書き取るのだと言ったね。
 「そういや、お前、こないだの新作、聴いたかよ」
 聞くとRolling Stonesの「Blue & Lonesome」のことだ。一昨年暮れ、Mark Knopflerの「British Grove Studios」(20 British Grove in Chiswick, West London)で3日間で録音されたBluesのCover集だ。発売は大統領選の結果が出た後の2016年12月2日。
 「発売のタイミングといい、Video Clipの内容といい、練りに練って作ってるよな」
 「黒人の音楽なのに白人しか出て来ないぜ」
 ヤツはそう言った。極度に洗練されたマーケティングってのは、ホント、不気味だよな、ご同輩。(作家・宮部みゆき評、讀賣新聞)


追記
アクビ娘を送ってきて、自分の心がすっかりヨレたことを自覚したな。上がりですな。この後、ナニをやろうとも、男としては、本質的な部分がヨレとりますな。それをしっかりと感じましたがねえ。昨朝、普段は伸ばし放題だけど黒い髯じゃなくって、真っ白な髯になっていましたわね。ショックだった。

そろそろルーね。
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気になる本――沢木耕太郎的。
3月2日
気になる本――沢木耕太郎的。
 「春に散る 上下」[沢木耕太郎著, ]
 沢木耕太郎は昭和55年(1980年)頃まで読んでいた。丁度その頃、我が家は日経は常に取っていて、さらにもう1紙として朝日と讀賣を3ヶ月交代で取っていた。一昨年から昨年にかけて朝日新聞に連載小説「春に散る」を書き、それが単行本化されていたことを先日讀賣新聞書評で知った。遅れているわけだ。昼行灯よりもっとひどい。
 日経はつい先年まで読んでいたが、朝日も、讀賣も、その頃を境にして父親は購読したことはないはずだ。今ではニュースを読むのがバカバカしいと言って産経新聞を取っているだけのようだが、“小倉の料理番長”の呉の実家も同じ産経新聞の仲間で、産経は読者が増えている。歴史の転換点を見誤ると新聞は企業ごと「消えて」しまうこともある。

春に散る (4).jpg

 10年前に北京線では産経新聞は無いのかと声を荒げる乗客がいて笑ったことがあった。しかしアパホテルのような騒ぎは聞いたことはない。国際線ではまだ国際問題になっていないようだが、その内、向こうさんの空港内でガリガリっとやられるかも知れない。
 昨日取り上げたStardust Hotelは近年転売され続け、今では中国人旅行者向けに中国系企業が改装中という話を知ってさもありなんと思ったものだ。
 さて、そういう話をしたいわけではなかった。沢木耕太郎が書いた小説の話だったのだ。だが、朝日の連載小説と聞き、朝日は随分遠くなったなあと感じていきなり脱線した。
 こちらは一昨年夏に連載開始だったから、目の回るような忙しさだった時期でもあった。その後、11月の半ばにイギリスに行けと言われて1ヶ月でビザを取って飛んでいった。だから新聞なんてよむ時間も無かったからこんな連載を知らなかった。

春に散る (3).jpg

 元ボクサーの還暦を過ぎた男・広岡仁一と、同じボクサー仲間だった老人たちを中心とする群像劇。タイトルから、瞬間的に宮本輝の描いた小説、「青が散る」が思い浮かんだ。新設大学のテニス部を舞台にした群像劇。二谷友里恵がマドンナ役で、石黒賢がこれでデビュー(父がデビス・カップやウィンブルドンに出場した日本初のプロテニス選手の修)、佐藤浩一とか、利重剛が出ていた。利重剛は成城学園前に実家があり、喜多見に住んでいた友達がいて、この頃、その友達が利重剛と行き来があって映画を作ろうという話があったことも余計なことながら思い出した。
 沢木は宮本輝を同世代・同学年で意識しているだろう。読んでいたのではないかと思う。こちらの「春に散る」は、元々高倉健の映画のために思い付いたアイデアを下敷きにしているそうだ。だが、あらすじを読むと、直ぐ「クレイになれなかった男」で描かれたあの東洋ミドル級・チャンピオン、カシアス内藤(1949年-)の佇まいが直ぐ浮かんだ。そして消えた内藤が、その後、末期癌からも回復して自分のジムを持っていたことを知った。
 (カシアス内藤か)
 そう知ると、この小説よりも、横浜の石川町の駅前に構えたカシアス内藤のジム、「E&J ボクシングジム」(http://www.ej-cassius.net/)を観に行ってみたいと想ってしまう。

春に散る (1).jpg

 昭和47年(1972年)、まだ日本にボクシング・ブームの余熱があった時代、輪島功一との打ち合いをやったカシアス内藤は、あの昭和の時代の俺たちのヒーローの1人だった。
 風貌からも分かる通りで黒人米兵の父親と日本人の母親の間に生まれ、横浜で育った。
 沢木の小説は「真拳ジム」だが、今の俺は「真正ジム」の所属で、東洋・太平洋スーパー・バンタム級王者の久保隼を応援している。4月9日、大阪でWBAの世界王座を賭け、Nehomar Cermenoと対戦する予定。2階級を制した強者は37歳。だが久保は26歳だ。
 人気漫画家の中田春彌の挿絵もあり、連載小説は人気があったらしい。ドラマか映画になるならそれも楽しみだ。だが、ボクシングを描けるだろうか。ボクシングは特別だ。沢木耕太郎にとっても、特別なもののようだ。40年間もカシアス内藤に付き合うなんてモノ好きだなあと感じる反面、元チャンピオンの人間の魅力も併せて想わされる。


追記
俺の好きなバンタム。4月8日にまたまた世界挑戦の久保隼、シクヨロです。4月8日でいんだっけ?
俺が自分でやっていれば、太ることができればバンタムだけど、無理だな。52kgかな。今は自動的に太ってしまう。哀しいことに。俺は京都の久保君に期待だよ。カッコええやん、パンチャーなのに優しそうで、憧れるなあ。
| 9本・記録集 | 06:43 | comments(0) | trackbacks(0)
気になる本――若い人に。
2月27日
気になる本――若い人に。
「日米開戦と情報戦」[森山優著, 講談社現代新書]
 「興味深いのはインテリジェンスについての分析である。アメリカが開戦前から日本の外交電報を解読していたことはよく知られている。一方で、日本は情報戦に完敗したというイメージが流布している。しかし実際のところ、アメリカの暗号解読は正しい情勢判断や巧みな外交につながったわけではないし、日本が暗号解読の実績において、英米にそれほど劣っていたわけでもなかった」
 「アメリカ政府が日本に『最初の一弾』を撃たせることを意識していたとしつつも、戦争の全体像や暗号解読の実態から、いわゆる真珠湾攻撃陰謀説については明快に否定」

        「日米開戦と情報戦」表紙。

 敗戦軍は戦勝軍が進駐して来るまでに書類を延々と焼いた。以前、海軍工廠が建造した大和の関連書類が殆ど残っておらず、三菱重工長崎の武蔵は残っているから海軍はいい加減だとどこかの親方が放言したので、宴席をいいことに説教したことがあった。上に判断力が無いと情報を取っても屑箱行き。それが殆どの歴史さ。だが、若い人は渦中に飛び込め。道は拓かれるぜ。(政治学者・京都大教授・奈良岡聰智評、讀賣新聞)
「草食系のための対米自立論」[古谷経衝著, 小学館新書]
 著者の古谷経衝(1982年-)はロン毛のアニオタ(アニオタ保守本流)で、評論家で、ネットでは有名な右翼系の人物ということになっている。テレビに出ては叩かれたりしていて、俺にはよく分からないが、ネットの世界では一角を占めている人物だそうだ。
 そういう人が、「シン・ゴジラ」や「トモダチ作戦」を例に挙げて日本の自立を促している。
 「近ごろはアメリカという後ろ盾が消滅、あるいは無効化する可能性を見て取り、動揺が広がっているという。著者は、アメリカが北朝鮮のテロ支援国家の指定を解除したことや、映画『シン・ゴジラ』の戦闘場面などを例示。結局のところ、自国のことは自分たちで解決するしかないと、日本人が気づき始めていると指摘」

        「右翼も左翼も嘘ばかり」表紙。

 タイトルにもある通り、反米愛国系のスタンスのようだが、現実路線で考えようという姿勢は買えるところ。
 「完全自主防衛などの極論を排しつつ、いかに『自立』できるかを考える。そんな姿勢がたしかに求められている」
 アメリカとの関係は単純じゃない。「トモダチ作戦」はやってくれた。制服組だけでなく、テンガロン・ハットにカウボーイ・ブーツの男たちが都内を闊歩していたのを観た人はいるかな。ヤツらは時には「戦争の犬」になるが、特殊なCivil Engineerたちだったのだ。俺は気づいたぜ。ネットばかりじゃなくて「街に出よう」ぜ、若い人は。(『記者が選ぶ』(佑)、讀賣新聞)
「現代日本外交史」[宮城大蔵著, 中公新書]
 上の古谷経衝のような世代は、これまでの30年間のアジア政策をどう見るだろうか。
 「長らく東南アジアをはじめとする『海のアジア』に着目してきた宮城氏ならでは。その柱は安全保障に加えて地域主義である。米、中、露といった大国との2国間関係のみならず、アジア太平洋における日本の位置を丹念に探るのである」
 「アジア太平洋経済協力会議(APEC)の設立、カンボジア和平への積極的関与、ODAの指針となった『人間の安全保障』、小泉純一郎政権期のASEAN(東南アジア諸国連合)+6路線、福田康夫首相の『「内海」としての太平洋』構想といった地域主義の系譜を取り出すと、能動的な外交の姿が立ち現れる」
 現在、日本のメディアは、反米にせよ、親米にせよ、アメリカ合衆国が過去の超大国の立場から降りようとしていることで座標軸を失って漂流しているようにも見える。その模索の一つがネットの新世代の声を拾い上げていく試みかも知れない。
 本書は冷戦以降の日本外国を概観する試みなので、その10年前に急死した大平正芳の「環太平洋連帯構想」については触れられていないのか。日韓交渉・日中国交でも大平は外相として関わった。若い人には大平正芳のような男がいたことは押さえて欲しいな。
 本書著者の宮城大蔵氏は元NHK。現在上智大教授だそうだ。一昨日触れた丸山鐵雄の評伝、「娯楽番組を創った男」の著者の尾原宏之氏もNHKに在職していた。丸山鐵雄はNHK職員だったから分かるが、それでも、近頃はNHKを辞めた人の書いた本を取り上げることが多い気がする。NHKはやるべきことが見出せていないのだろう。
 NHKだけではない。朝日新聞も同じだ。親しかった男は、朝日を辞めて、今、地球の裏側のStreetからバンバン書いている。頼もしい。(政治学者・東京大教授・牧原出評、讀賣新聞)


追記
某所へ移動。都会だけど、その分色々なことが目に付く。
俺が子供の頃はブランコのファシズム政権だったというのは建築物で伺えますわな。山中の大きな村落なんかどこにもなくて、全てが大きな集合住宅というところにやるせなさが感じられる。
| 9本・記録集 | 06:42 | comments(0) | trackbacks(0)
気になる本――丸山三兄弟のこと。
2月25日
気になる本――丸山三兄弟のこと。
「娯楽番組を創った男」[尾原宏之著, 白水社]
 当選後、就任前のDonald Trumpに会いに行った安倍晋三首相。2月半ばに2泊3日も大統領の別荘で過ごし、27ホールのゴルフ・コースを回った。日米両トップがゴルフや食事を共にしている2月12日、北朝鮮がミサイルを日本海の公海に向けて発射した。各国は一斉にこの行為を非難する声明を出し、日米のトップも、10日の首脳会談の後に出した北朝鮮への核・ミサイル開発の放棄に関する共同声明への挑戦で、断じて容認はできないと明言した。だが、容認しないで何をするか――言葉のまやかしだ。政治とはそういうものでもある。敵対する側も、安倍訪米ではどんなことでも言うだろう。
 「日米の交渉で安倍内閣は対等に交渉できないだろう。トランプ大統領との会談も色々なお土産を持って行ったようだ。トランプ氏が公共事業を主張しているが、数兆円の日本が負担をして、間接的にするということも一部報道されている。カネで何とかご機嫌とってまあまあ、というやり方をしている。貿易、経済交渉になったらもっと強い要求を出してくるのではないか。自分の懐にもっと響いてきた時にどうするか。その時になってギャーと泣き叫んでもしょうがない」
 小沢一郎の講演要旨を引いたのが朝日。大陸に朝貢外交をやった人のブーメラン発言を引くしか抵抗の術が無いのも惨めだが、朝日ももうそこまで追い詰められている。
 さて本書は敗戦前から戦後にかけてNHKで活躍した丸山鐡雄(1910-88年)の評伝だ。なぜ鐡雄か。鐡雄は丸山三兄弟の長男。敗戦前に大阪朝日や大阪毎日等で論陣を張った丸山幹治(1880-55年)の息子で、晩年は日本コロムビアで美空ひばりをいびり続けた。
 俺の若い頃には神格化されるほどの政治学者だったのが次男の眞男(1914-96年)であり、三男の末弟は長男・次男と違い、全日本炭鉱労働組合で書記を勤めた邦男(1920-94年)。長男と三男の10年の生年の違いは大きい。
 長男・鐡雄は、戦後は「素人のど自慢大会」をはじめ、三木鶏郎と組んで人気番組を作り、出身母体のテレビと組んで日本の歌謡曲の全盛期の礎を築いた。しかし三男の邦男は、俺にはまるっきり活動家に近い。神のような扱いの次男の「無責任の体系」を批判した。次男と三男は戦後のイデオロギー論争の中を泳いだところがあるから、人間として観た時には大して面白くない。
 その点、長男は早くに世間に出たこともあり、敗戦前の全体主義の世相の中でNHKに潜り込んだ人物だから、戦後の世相を泳ぎ渡る抜き手は面白い。素人にのど自慢をやらせたのはこの男の発案で、国中が熱狂する超人気番組になった。あの美空ひばりの映画初出演は笠置シヅコの「東京ブギウギ」を歌った「のど自慢狂時代」。しかし彼女は実際のNHKのど自慢大会の予選では「子供らしくない」として失格させられている。
 ひばり人気が不動になった昭和25年になっても「かりにいま美空ひばりが、のど自慢に出場したとしても、私は鐘を鳴らさぬだろう」と毎日新聞に書いた。その後、ひばりが田岡一雄との関係で世間の非難を浴びた時は日本コロムビアの役員として彼女を叩いた。そしてNHKから長い間干された。音楽専門教育を受けていないひばりのような素人も、芸者が歌を吹き込むそれまでの芸能業界も鐡雄は嫌った。
 「教育上よろしくない」というのが鐡雄のスタンスで、この辺り、次男の眞男がヤクザの存在を日本の(それまでの右翼的な)意思決定過程では陰の重要な役回りとして攻撃したところと全く同じ伝だ。
 三男の邦男は早稲田を中退して炭鉱の組合活動に飛び込んでしまったので、大宅壮一のトップ屋グループに加わり、闘争の現場等をつぶさに見て政治運動に失望していく。「現代の眼」や「創」等の雑誌に連載した共産党批判も含めた天皇の戦争責任を問う「天皇観の戦後史」[白川書院]は奇跡的に面白い。
 天皇を躊躇せず批判している。このため、敗戦後、「人間宣言」をした象徴天皇を嫌った三島由紀夫の思想を首尾一貫していると誉めている。「豚か狼か」等の作品のタイトルで先入観を持たれて損をしている。邦男は制度の批判でなく、天皇自身を批判した点で、三島由紀夫と並ぶ。敗戦後も尻小玉を抜かれていない稀有な男だった。
 それでも三兄弟には消し難いエリート臭がある。朝日と同じようなエリート臭。ストを破るやくざ。これと乱闘する炭鉱夫。そこに美空ひばりを置いてみる。路傍の石ころを排除するか、その存在を見ようとしないところは実は三人に共通している。
 この書評では鐡雄のひばりイジメに筆が及ばない。どうしたことか。牧原出らしくない。一種の人民裁判で、人権を蹂躙するものだった。鐡雄の陰の部分にこそ光は当てられるべきだろう。戦後社会の道筋をしっかり見直すことはこれからのために大切な作業だ。
 さもなければ我々は思考の筋道が脆弱な「戦えない」インテリ国のまま、アジアの片隅で誰かに属国化されてしまうぜ。(政治学者・東京大教授。牧原出評、讀賣新聞)


追記
ピンチョス地獄の蓋が開いちまったぜ。あらあら大変だわね〜。本日だけでまず5軒参りました。イーサン・ホークとグレン・クローズにお会いしました。彼女は怖くて逃げてきました。イーサン・ホークはおっちゃん化してましたな。
それと、町で一番でかい教会に名古屋にいるはずのジョニーがいてびっくりしました。つて、あれは、ジーザスだよと誰かに言われるまで気がつきませんでした。
| 9本・記録集 | 07:25 | comments(0) | trackbacks(0)
気になる本――日本語の吹き替えで観たい。
2月24日
気になる本――日本語の吹き替えで観たい。
 「モンティ・パイソンができるまで(原題:So, Anyway)」[John Cleese著・安原和見訳, 早川書房]
 中学生の頃に12チャンネルで放送していた怪しい番組が「チャンネル泥棒!快感ギャグ番組・空飛ぶモンティ・パイソン」だった。
 Graham Chapmanの声は山田康雄が当て、本書の著者、John Cleeseは、銭型警部の納谷悟朗。アメリカ人でアニメーション担当のTerry Gilliamの声が愛する広川太一郎。

       「モンティ・パイソンができるまで」表紙。

 俺には「ルパン三世」の漫画家がモンキー・パンチで声優はClint Eastwoodと同じ山田康雄だって知っていたけど、山田康雄と納谷悟朗に広川太一郎だ。当時、日本で最高のメンツを揃えていたけど、画面のギャグ集団には何か暗い攻撃性が感じられて合わない感じがした。イギリスの社会を笑い飛ばしているように感じられたけど、分からない。
 それでもガキには抵抗のできないナンセンスなが含まれて話題になった。その代表がJohn CleeseのSilly Walkだった。その頃、何度か真似をしたけれど、あれは日本人が真似るのは難しい。やってみれば分かるだろう。骨格が違うせいだ。
 ここまで書いてきて、そのSilly Walkについて想い出すことがあった。
 俺には4学年下になる妹がいて、彼女はScot(仮にKとしよう)とEdinburghに所帯を構えて住んでいる。残念ながらまだ「Trainspotting Tour」は実現できずにいるのだが、帰れと言われる前に一度は行きたいと想っている。
 K君と会ったのはSex Pistols再結成の1996年だった。OfficialのSex PistolsのTourシャツを父娘お揃いで着て目立った。「Holiday In」に投宿した俺たちを訪ねてきた時、アクビ娘はまだ3才だった。K君、緊張していたのかどうか彼女のゴキゲンを取ろうとしていきなり始めたのがSilly Walkだった。
 (うわ、コイツ、何者だよ!)
 だが、アクビ娘は大喜び。K君は1970年生まれ。Pythonsの全盛期には小学生だった。年季が入っていて、どこからどう見ても、「アホ」。俺たちとK君を結んだのは見上げるような大男のClint Eastwoodくらい背が高いJohn Cleeseだった。「アホ」とは言語・人種を問わない。そのSilly Walkerの自伝がこれ。原題は「So, Anyway」。昨日の書と逆で、邦題の方が内容を正確に言い表している。本人含めた6人衆が揃ってPythonsを始める前までの若い時代を描いたものだ。

「The Mminister of Silly Walks」

 本書を英文学者はこう評している。
 「(John Cleeseは)体面を気にする『ロウアー・ミドル』出だが、パブリックスクールに通ったおかげで『ミドル・ミドル』のふりをすることができるという。このイギリス人の階級意識というのは実に面倒だが、クリーズに言わせると、本物の上流階級はすばらしく礼儀正しいのに、『本心から好きなのは、なにかを追いかけて撃ったり、水から釣り上げて窒息させたりすること』だそうだ」
 階級を嗤うところにPythonsの面白さはあるがやや不穏な感じもする。また「本心から好きなのは、なにかを追いかけて撃ったり、水から釣り上げて窒息させたりすること」という記述は、すでにPythonsの貴族を嗤うギャグになっているのだ。

      「New Yolker」(Silly Walk) June of 2016

 CambridgeのFootlights Dramatic Clubを核にするPythonsと違って、Hugh Grant(1960年-)はOxfordの卒業生だが、本当はComedyをやりたくてBBCで脚本を書いていたChris Langらと「The Jockeys of Norfolk」を結成していた。
 100kgを超えてしまったK君はもうSilly Walkはできないだろう。だが子供の頃から外国人の笑いだという感じがあった。今もそれは変わらないどころか、ますます笑いの真髄は分からない気がする。日本では脚本を景山民夫が丁寧に書き換えていたそうで、ここは吹き替え版で観てみたいところだ。(英文学者・河合祥一郎評、日本経済新聞)


追記
3人の前妻は何れもアメリカ人だったが、最期に選んだ今の女房はイギリス人。この辺りにギャグをかませる突っ込みどころ満載なんだけど、本人は意外にもそういうネタはあまり仕込んでいない。ってかねえ。

追記の追記
今日はホントのホントに密談だった。
| 9本・記録集 | 08:45 | comments(0) | trackbacks(0)
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